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R.E.M. ―眠る世界へ贈る、目覚めの子守唄―  作者: 天宮夢二
はじまり

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第7話④ オソスギタオクノテ

ケータに何がおきている?


 ――カチッ。



 ケータが、

 一歩前へ出た。



「……ケータン?」


「ケータン……?」



 とっちゃんとユキの声が、

 重なった。



 ケータが、

 ゆっくりと振り返る。



「…………」



 二人は、

 言葉を失った。



 眼が、

 赤い。



 炎のように。



 瞳の奥で、

 赤い光が揺らめいている。



 髪は、

 逆立っていた。



 熱風に煽られているわけでもない。



 まるで。



 ケータの身体そのものから、

 何かが噴き上がっているように。



「けーた――」



 とっちゃんが、

 名前を呼びかけた。




 ――カチッ。




 ケータが、

 消えた。



「……え?」



 次の瞬間。




 ――ドゴォォォン!!




 境内が、

 沈んだ。



 砂利が弾け飛び。



 土煙が、

 噴き上がる。



「っ!」



 とっちゃんとユキが、

 腕で顔を覆う。



 何が起きたのか。



 分からない。



 ただ。



 土煙の向こう。



 黒い獣が、

 地面へ叩き伏せられていた。



 四本の脚が、

 砂利へ沈み。



 腹が、

 地面についている。



「…………」



 あれほど。



 父の攻撃を、

 ことごとく躱した獣。



 先を知っているように、

 すべてを避け。



 父を打ち倒した獣。



 その黒い巨体が。



 今は。



 立ち上がることすら、

 許されていなかった。



「グ……ッ」



 黒い獣が、

 頭を上げる。



 赤黒い眼が、

 上を向いた。



 とっちゃんも、

 その視線を追う。



「……ケータン?」



 空に。



 ケータがいた。



 赤い眼で、

 黒い獣を見下ろしている。



 黒い獣が、

 身体を起こす。



 そして。



 何もない場所へ、

 跳んだ。



「……?」



 父と戦ったときと、

 同じ。



 まだ起きていない何かを、

 先に避けた。



 その瞬間。




 ――カチッ。




 ケータが、

 消えた。




 ――ドンッ!!




「――ッ!?」



 黒い獣が、

 地面へ叩きつけられた。



 避けた、

 その先で。



 ケータが、

 黒い獣の頭に立っていた。



「…………」



 黒い獣の眼が、

 大きく見開かれる。



 先を読んでも。



 その先に、

 いる。



「グ……!」



 黒い獣が、

 起き上がろうとする。



 ケータの足が、

 わずかに沈んだ。




 ――ズンッ!!




 黒い獣の顔が、

 地面へ埋まる。



 吼えることさえ、

 許されない。



「…………」



 ケータが、

 母を見る。



 金色の面。



 四つの眼が、

 ケータを見返した。



「ナニヲ シテイル」



 低い声。



 ケータの声なのに。



 ケータの言葉では、

 なかった。



「……ケータ?」



「ハヤク オワラセロ」



 母が、

 息を呑む。



「フウイン シロ」



 黒い獣が、

 身を捩る。



「グオオオオオオッ!!」



 ケータは、

 黒い獣を見下ろした。



「……ジカンガ ナインダ」



 母が、

 我に返る。



 葦の矢を、

 番えた。



 ギリ……



 弓を、

 引く。



 桃の甘い香りが、

 ふわりと漂った。



 金色の光が、

 葦へ集まる。



 母が、

 ケータを見る。



 赤い眼。



 逆立つ髪。



 そこにいるのは、

 息子の姿をした何か。



「…………」



 母は、

 何も聞かなかった。



 黒い獣へ、

 弓を向ける。



 そして。



 指を離した。



 ――ヒュッ。



 葦の矢が、

 飛ぶ。



 黒い獣の胸へ。



 ――トン。



 あたった。



 刹那。



 金色の光が、

 爆ぜる。



「グオオオオオオオオッ!!」



 黒い獣の足元から、

 金色の線が走る。



 一つ。



 二つ。



 地面を這い。



 黒い巨体を囲んで、

 円を描く。



 そして。



 もう一本。



 金色の線が、

 母の足元へ伸びた。



 母は、

 動かなかった。



 逃げようとも、

 しなかった。



 金色の線が。



 黒い獣と、

 母を結ぶ。



 母が、

 ケータを見る。



 金色の面の向こう。



 顔は、

 見えない。



 それでも。



 母が笑った。



 そんな気がした。



 金色の円が、

 強く輝く。



 黒い獣が、

 激しく暴れた。



「グオオオオオオオオッ!!」



 黒い妖気が、

 噴き上がる。



 けれど。



 ケータの小さな足が、

 その頭を押さえている。



「グ……ッ!」



 動けない。



 黒い獣の脚が、

 金色の光へ沈む。



 母の足も。



 同時に。



 光へ、

 沈んでいく。



「おばさん!?」



 とっちゃんが、

 叫んだ。



「おばさん!!」



 ユキが、

 駆け出す。



 けれど。



 金色の光が、

 二人を拒んだ。



 黒い獣が、

 身を捩る。



 そのたび。



 母の身体も、

 光へ沈んでいく。



 黒い脚が。



 母の脚が。



 黒い胴が。



 母の身体が。



 同じ金色の光へ、

 呑まれていく。



 ケータは、

 赤い眼のまま。



 母を、

 見ていた。



 何も言わない。



 何の表情も、

 浮かべない。



 黒い獣の首が、

 沈む。



 最後に。



 二本の長い耳が、

 金色の中へ消えていく。



 母も。



 胸元まで、

 光へ沈んでいた。



 金色の面。



 四つの眼が、

 ケータを見つめる。



「…………」



 母の口元が、

 わずかに動いた。



「ケータ」



 その声に。



 赤い眼が、

 ほんのわずかに揺れた。



 そして。



 母も、

 光へ沈んだ。



 金色の面が。



 四つの眼が。



 最後に、

 消える。



 黒い獣も。



 母も。



 もう、

 どこにもいない。



 金色の光が、

 細くなる。



 地面に描かれた円へ、

 吸い込まれるように縮んでいく。



 そして――




 ――カチッ。




 光が、

 閉じた。



「…………」



 静寂。



 ぱち。



 ぱちぱち。



 やがて。



 炎の音だけが、

 戻ってきた。



 地面に残った、

 金色の円。



 そして。



 桃の甘い香りだけが、

 燃える境内に残っていた。



「…………」



 とっちゃんも。



 ユキも。



 何も言えない。



 その頭上。



 ケータが、

 宙に浮かんでいた。



 母が消えた場所を、

 赤い眼で見下ろしている。




 チク。



 タク。




 赤い光が、

 消えた。



 逆立っていた髪が、

 ゆっくりと落ちる。



 身体から、

 力が抜けた。



「ケータン!?」



 ケータの身体が、

 傾く。



 そして。



 落ちた。



「ケータン!!」



 とっちゃんが、

 走る。



 ユキも、

 駆け出す。



 夜空から。



 小さな身体が、

 真っ逆さまに。



 燃える境内へ、

 落ちていく。




 チク。



 タク。




 ――カチッ。




 時計の音が、

 止まった。



     **



 そのとき。



 夜空を、

 一筋の光が横切った。



 一つ。



 また一つ。



 星が、

 流れる。



 やがて。



 数えきれないほどの星が、

 夜空を流れていく。



 誰にも、

 見上げられることのない空を。


本編をお読みいただきありがとうございました!


もし「面白い!」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけたら、画面をもう少しだけ下にスクロールしたところにある……

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次回9/11 19:00 第8話更新予定です。

今後1章が終わるまでは水曜日、金曜日、土曜日、日曜日を更新予定にしています。

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