8 異変
平和な世界は、ガラスのように脆くて弱い。
当たり前に思っていたものは、簡単に崩れる。
ほんのわずかな歪みが、日常を崩すこともある。
―世界を旅する少女の物語―
本屋を出て、通りを歩いていると――
「……なんか騒がしくない?」
ノエルがふと足を止めた。
街の中央にある広場の方から、人のざわめきが聞こえてくる。
ざわざわとピリついた空気が、流れてきた。
二人は人混みをかき分けながら、広場へと向かう。
近づくにつれて、声がはっきりしてくる。
「なんだ今の!?」
「危ないぞ、離れろ!」
人だかりの向こう側。
その中心で――
――バン!
鋭い音とともに、光が弾けた。
「っ……!」
思わず足が止まる。
「魔道具、か。」
ノエルが小さく呟いた。
露店の一つ。
並べられている魔道具のいくつかが、不安定に光っている。
店主が慌てて手を伸ばす。
「待って、それ触らない方が――」
ノエルが言いかけた、その瞬間。
――バチバチ
別の魔道具も、強く光り始めた。
「やば……これ連鎖するやつ。」
ノエルの声が少し低くなる。
「イリス、少し離れてて。」
短く言って、一歩前へ出る。
「え……あ、はい!」
イリスは人の流れに押されるように、少し後ろへ下がった。
ノエルはゆっくりと手をかざす。
「システィ」
静かな声が落ちる。
その瞬間――
暴れかけていた光が、ぴたりと止まった。
「え……?」
ざわめきが、一瞬だけ静まる。
ノエルはそのまま魔道具を一つ手に取り、じっと見つめる。
わずかに、眉をひそめた。
「……おかしいな。」
小さく呟く。
「壊れてるって感じじゃない。」
「えっと、それって……」
少し距離を保ったまま、イリスが声をかける。
ノエルは一瞬だけ考えてから、答えた。
「……歪み、かもしれない。」
「歪み……?」
聞き慣れない言葉に、イリスは首を傾げる。
「魔力の流れが狂う現象。……こんな場所で起きるのは珍しいんだけど。」
「魔力の流れ……」
イリスは小さく繰り返す。
そのとき。
止まったはずの光が、再び揺れる。
ノエルの指が、ぴたりと止まった。
「……あれ?」
次の瞬間。
――バチッ!!
さっきより強い音が響いた。
「っ!?」
広場の空気が震える。
人々のざわめきが、一気に大きくなる。
光が一瞬、広がる。
「ノエル……!」
イリスは思わず名前を呼ぶ。
ノエルは振り返らず、前を見たまま言った。
「――やっぱり、歪みだ。」
静かな声だった。
けれど、そこに迷いはなかった。
その言葉と同時に――
広場の空気が、わずかに揺らぐ。
見えない何かが、そこにあるようだった。
さっきまでの賑やかな場所が、少しだけ遠く感じる。
イリスは息を呑む。
「大丈夫。すぐ終わらせるから。」
ノエルが一歩前に出る。
その背中は、迷いなくまっすぐだった。
「……はい。」
小さく頷く。
何が起きているのかは、まだ分からない。
けれど――
ノエルの背中から、目が離せなかった。
広場の空気が、ゆっくりと歪みはじめる。
それは、目には見えないはずのもの。
けれど確かに、“そこにある”と分かる違和感だった。
日常の中に、異質なものが紛れ込んでいる。
その気配が、静かに広がっていく。
「職業は転生です!」第8話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。平和な雰囲気から一転して、少し緊張感のある展開になりましたが、どうでしたか?書きながら次の展開を考えているので、私自身もこの先が楽しみです。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。
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