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9 歪み

平和な世界は、ガラスのように脆くて弱い。

当たり前に思っていたものは、簡単に崩れる。

ほんのわずかな歪みが、日常を崩すこともある。

―世界を旅する少女の物語―

広場の空気は、張り詰めたままだった。

ざわめきは続いている。

けれど、その奥に――

何かが“混じっている”。

「……」

ノエルは、光を揺らす魔道具を見つめていた。

止まっていない。

わずかに、けれど確かに脈打っている。

「さっき止めたはずなのに……」

イリスの声に、ノエルは軽く首を振った。

「抑えただけ。根っこが残ってる。」

そのとき。

「こっちも光ってるぞ!」

別の声が上がる。

振り向くと、離れた露店でも同じ現象が起きていた。

「……同時、か。」

ノエルの目が細くなる。

「魔道具が原因じゃないね。」

視線が、ゆっくりと下へ落ちる。

石畳。

その一角に、ほんのわずかな違和感。

「……」

しゃがみ込み、指先を触れる。

何もない。

けれど――

「空間側か。」

立ち上がる。

「え……?」

イリスが戸惑う。

その直後。

――ぐにゃ

空気が、歪んだ。

今度ははっきりと。

「っ……!」

イリスが息を呑む。

「見えた?」

「……はい。あれが歪みですか?」

「っそ。イリス、もう少し離れてて。」

「……はい!」

素直に距離を取る。

ノエルはそのまま、歪みの中心へと歩く。

石畳の一角。

そこだけ、わずかにぼやけているように見える。

「……ここだね。」

手をかざす。

すると――

空間が、わずかに波打った。

「……小規模、かと思ったけど――」

目を細める。

「想定より、広がりが早い。」

その瞬間。

――バチッ!!

魔道具が強く弾ける。

同時に、歪みが一気に膨らんだ。

「っ、来たね。」

ノエルの声が少しだけ低くなる。

歪みは、目に見えるほどの“揺らぎ”となって広がる。

空気が裂けるような感覚。

周囲の景色が、わずかにズレる。

「ノエル……!」

イリスの声が遠くなる。

「大丈夫。」

短く返す。

ノエルは、歪みの中心に手を伸ばした。

指先が、“何もないはずの場所”に触れる。

その瞬間――

ビリッ、と感覚が走る。

「……やっぱり。」

そこにあった。

見えない“核”。

歪みの起点。

「こういうタイプね。」

軽く息を吐く。

「外から抑えても無駄なやつ。」

指先に、力を込める。

「なら――直接静める。」

ノエルの目が、わずかに鋭くなる。

「プラカチィオ」

その言葉と同時に。

淡い光が、指先から広がった。

暴れるような力じゃない。

静かで、均すような光。

歪みに触れた瞬間――

「……っ」

空間が、強く反発した。

波のように揺れる。

けれど、ノエルは手を引かない。

「セーダ。」

ぽつりと呟く。

光が、ゆっくりと広がる。

歪みを包み込むように。

揺らぎが、少しずつ弱まっていく。

「……」

もう一度、力を込める。

すると――

――すっ

何かがほどけた。

同時に。

歪んでいた空気が、静かに戻る。

魔道具も正常な状態に戻っている。

「……終わり。」

ノエルが手を下ろす。

周囲のざわめきが、ゆっくりと戻ってくる。

「……あれ?」

「直ったのか……?」

人々が戸惑いながら周囲を見渡す。

さっきまでの異常が、嘘のように消えていた。

イリスは、しばらく動けなかった。

そして――

ゆっくりと、ノエルに近づく。

「……今の、何だったんですか。」

小さく問う。

ノエルは少しだけ考えてから答えた。

「あれが歪み。」

イリスは、さっきの光景を思い出す。

空気が歪んだ感覚。

現実が、少しだけ崩れたような違和感。

「さっきのは、まだ軽い方かな。」

ノエルは続ける。

「これくらいなら、すぐ直せる。」

その言い方は、いつも通り軽かった。

けれど――

「……でも。」

少しだけ、視線を落とす。

「街中で出るのは、あんまり良くない。」

その一言に、わずかな重みがあった。

「え……?」

イリスが反応する。

ノエルはすぐに表情を戻した。

「ま、今は気にしなくていいよ。」

軽く笑う。

「もう終わったし。」

そう言って、くるりと振り返る。

「続き、行こっか。」

「え……あ、はい!」

イリスは少し慌てて頷く。

広場は、少しずつ元の賑わいを取り戻していた。

けれど――

さっき感じた“何か”は、まだ胸の奥に残っている。

イリスは一度だけ、さっきの場所を振り返った。

もう、何も起きていない。

それなのに。

「……」

言葉にはできない違和感だけが、静かに残っていた。

そして――

その違和感に気づいていない人々の中で、

ノエルだけが、ほんの少しだけ眉をひそめていた。

「職業は転生です!」第9話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。ノエルの歪みへの対処はどうだったでしょうか。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。

https://x.com/yoizuki_nvl

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