7 好きなこと
本の中には、知らないことがたくさんある。
触れたことのない世界。見たことのない知識。
ページをめくるたびに、少しずつ世界が広がっていく。
だから、その先を知りたくなる。
―世界を旅する少女の物語―
ノエルに続いて、本屋の扉の前に立つ。
イリスは、少しだけ息を整えてから、そっと扉を開けた。
中に入った瞬間、空気が変わる。外のざわめきは遠ざかり、静かな空間が広がっていた。棚には隙間なく本が並び、ところどころで人が本を読んでいる。
「……」
イリスは、その場で足を止めた。
視界いっぱいに広がる本。
知らない題名、知らない内容。
「……すごい。」
気づけば、ゆっくりと歩き出していた。
一冊、手に取ってみる。
「読める……」
ぽつりと呟く。
この世界の文字。見知らぬはずなのに、すらすらと読めた。
「……」
無意識のうちに一行、また一行と、読み進めてしまう。そして、次の本へ、また次の本へと手が伸びる。
気づけば、手が止まらなかった。
知らないことが、そこにある。
「イリス?」
ノエルの声で、はっと我に返る。
「……あ、すみません。」
少しだけ慌てて、本を閉じる。
「いや、いいけど。」
ノエルは軽く笑った。
「すごい集中してたね。」
「……本が、新しい知識が、たくさんあって。」
イリスは少し視線を逸らしながら言う。
「見たことのないものばかりで……」
その言葉の途中で、また別の本が目に入る。
ほんの少しだけ、そちらへと体が向く。
「……」
迷いなく、手を伸ばす。
「ほんとに好きなんだね。」
ノエルが呟く。
「……はい。」
今度は、はっきりとした返事だった。
「前の世界でも、よく読んでいました。」
ページをめくりながら続ける。
「知らないことを知るのが、好きで。」
「ふーん。」
ノエルは軽く相槌を打つ。
「じゃあ、この世界は当たりだね。」
「……はい。」
ふと、棚の一角に目が止まる。
「……これ」
手に取ったのは、ファキリスの歴史について書かれた本だった。王の系譜や都市の成り立ち、過去の出来事がまとめられている。簡単な入門書ではなく、ある程度まとまった内容の一冊だった。
ノエルが横から覗き込む。
「へえ、そこいくんだ。」
軽く目を通して、すぐに顔を上げる。
「私は歴史に興味ないから、あまり読まないけど。」
イリスはページをめくり、内容を追う。
知らない名前。知らない出来事。けれど、その一つ
一つが、この世界を形作っているものだった。
「この世界のこと、知りたくて。」
「どうする?買う?」
「……はい。これを読みたいです。」
迷いのない返事だった。
「わかった。」
ノエルはそう言って、会計の方へと向かう。
支払いを終え、本屋を出る。
外の光が、少しだけまぶしく感じた。
手の中には、一冊の本。
ただの“知らない世界”だったものが、
少しずつ、形を持ちはじめている。
イリスは、本を大事そうに抱え直した。
「……楽しみです。」
ぽつりと呟く。
「何が?」
ノエルが振り返る。
イリスは少しだけ考えてから、答えた。
「この世界を、知っていくことが。」
その言葉に、ノエルは軽く笑う。
「そっか。」
前を向き、歩き出す。
イリスもその後を追う。
知らないものばかりだった世界に、
少しずつ、意味が生まれていく。
そのことが、今はただ嬉しかった。
「職業は転生です!」第7話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。7話ではあまり見ないイリスのはしゃいでいる(?)シーンを書いてみました。毎週日曜日20時頃更新するのでまた読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。
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