6 前と今
知らない場所。知らない人たち。
それまで当たり前だったものが、通じない世界。
そんな場所で、自分はちゃんとやっていけるのか。
それでも――少しだけ、楽しみだと思えた。
―世界を旅する少女の物語―
通りをしばらく歩いたあと、ノエルは一軒の店の前で足を止めた。
「ここが、家具屋。」
扉を開けると、木の香りがふわりと広がった。
並んでいるのは机や椅子、棚にベッド。落ち着いた色合いの家具が並んでいる。
「とりあえず、必要なのはこのへんかな。」
ノエルは店内を見渡しながら言う。
ベッドと机と椅子。それにちょっとした収納。
イリスもゆっくりと店内を見て回る。
同じように見えて、少しずつ違う家具たち。
高さや形、手触り。
その中で、自然と足が止まった。
「……えっ、これ。」
装飾の少ない上品でシンプルな机。イリスには見覚えのある品物だった。
「これが、いいです。」
「へぇ。」
ノエルが横から覗き込む。
「落ち着いた雰囲気でイリスにぴったりだね。」
「ありがとうございます。前に使ってたやつに似ていて。」
「なるほどね。」
ノエルは少しだけ笑った。
ベッドや椅子は、ノエルが手際よく選んでいく。
迷いのない動きだった。
「こんなもんかな。」
「あの、こんなに買って大丈夫ですか。」
「大丈夫大丈夫。必要なものだし。ちゃんとお金あるから安心して。」
「あの……お金もそうなんですけど運ぶのは。」
イリスは少し不安そうに尋ねる。
ベッドや机は大きい。簡単に持ち運べるようには見えなかった。
「あー、それね。」
会計が終わると、
ノエルは腰につけていた小さなバッグを持って、
「これに入れる。」
とあたりまえのように言った。
「……え?」
思わず、イリスは目を瞬かせる。どう見ても小さなバッグ。家具が入る大きさには見えない。
「マジックバッグってやつ。」
そう言いながら、ノエルはベッドに手を触れる。
「で、こうやって――」
ノエルがバックに入れるたび、家具がふっと消えていく。すべて入れ終えると、ノエルは何事もなかったかのようにバッグを持ち上げた。
「……!?こんなに大きいものまで入るのって普通なんですか?」
「いや、普通のは無理。」
ノエルはあっさりと否定する。
「これはちょっと特別。少し容量いじっただけだし。店やってるから、このくらいは普通に作るよ。」
「普通じゃないと思います。」
本で読んだことはあった。
けれど――
目の前で起きていることは、その想像をはるかに超えていた。
「これで生活は大体いけるかな。」
ノエルが軽く言う。
「……はい。」
イリスは静かに頷いた。
まだ慣れない。
けれど――
少しずつ、“ここで暮らす”形が見えてきた気がした。
店を出ると、そのまま広場の方に歩きはじめた。
そのときだった。
ふと、視線が止まる。
「……あれは。」
通りの一角に、小さな店があった。
「本屋だね。」
ノエルが言う。
イリスは、その場からしばらく動けなかった。
「……入ってみる?」
「……いいんですか?」
「いいよ。もうやること終わったし。」
あっさりとした返事。
イリスは、もう一度だけその店を見る。
何も知らない世界。その世界の“本”が並ぶ場所。
「……行ってみたいです。」
小さく、けれどはっきりとそう言った。
ノエルは軽く笑う。
「じゃあ行こっか。」
そう言って歩き出す。
イリスはその後を追いながら、胸の奥に小さな高鳴りを感じていた。
知らない世界。
その中に、知りたいと思えるものが見えてきた。
「職業は転生です!」第6話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。もし、自分が転生したら何をやってみたいですか?感想と一緒に教えてくれると嬉しいです。毎週日曜日20時頃更新するのでまた読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。
https://x.com/yoizuki_nvl




