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25/27

22 3日目

やりたいことは、最初から決まっている人ばかりじゃない。 分からないなら、見てみればいい。 触れてみればいい。 一歩踏み出した先で、初めて見つかるものもあるのだから。

―世界を旅する少女の物語―

職業体験ツアー三日目。

ファキリスは、朝日の澄んだ空気に包まれていた。

イリスは参加証を見つめる。

『料理人』

「今日は飲食店なんですね。」

指定された場所へ向かうと、一軒の食堂が見えてきた。

入口には、

『フレメント』

と書かれた看板が立てられている。

店内へ入ると、いつもより少ない人数の参加者たちが集まっていた。当たり前だ。市場やものづくり工房とは違い食堂は広くない。そのため、いくつかの店に分かれてでの実施だった。

厨房からは包丁を刻む音や鍋が煮える音が聞こえてきた。

「皆さん、おはようございます。」

進行役の女性が前へ出た。

「本日の体験は『料理人』です。」

その隣には、白い調理服を着た男性が立っていた。

「この店の店主、アルバです。よろしくお願いします。」

穏やかな笑顔の男性だった。

「まずはこの店を知ってもらうために厨房を見てもらおう。」

アルバの案内で参加者たちは厨房へ入る。

大きな鍋ではスープが煮込まれ、フライパンからは肉が香ばしい匂いがただよってくる。

料理をする者、 盛り付けをする者。

誰一人として手を止めていなかった。

「すごい……。」

イリスは思わず息を呑む。

「料理人は料理を作るだけだと思われがちだけど、それだけじゃない。」

アルバは参加者たちへ向き直る。

「朝早くから仕込みをして、注文に合わせて調理し、温かいうちに料理を出す。そして料理は、厨房だけでは完成しない。料理を運ぶ人がいて、お客様へ届けて初めて、一皿の料理になる。今日は安全のため、皆さんには接客を体験してもらいます。」

アルバから参加者たちはエプロンを受け取る。

イリスもエプロンを身につけると、少しだけ背筋が伸びた。

開店すると、次々と客が店へ入ってくる。

「いらっしゃいませ。」

店員に続きながら、イリスも声をかける。

最初は少し緊張した。

「こちらのお席へどうぞ。」

ぎこちない案内だったが、お客様は笑顔で頷いてくれた。その後は、水を運び、料理を運び、食べ終わった皿を下げる。

料理を落とさないよう慎重に歩く。

「お待たせしました。」

料理をテーブルへ置く。

「ありがとう。」

その一言だけで、少し嬉しくなった。

忙しい時間帯になると、店内は一気に慌ただしくなる。

「二番テーブルお願いします!」

「こっちは片付けるよ!」

店員たちは声を掛け合いながら動いていた。

イリスも周りを見ながら、自分にできることを探す。

料理を運び、空いた皿を下げ、水がなくなった席へ向かう。誰か一人では回らない。みんなが協力して、お店を動かしていた。

少し落ち着いた頃、アルバがイリスへ声をかけた。

「どうだった?」

「思っていたより忙しかったです。」

アルバは笑う。

「料理は作るだけじゃないって分かったかな?」

「はい。」

厨房で料理を作る人。

料理を運ぶ人。

席を片付ける人。

それぞれが役割を果たしている。

「料理だけじゃなくて、お店全体で一つの料理を届けているんですね。」

思わず口にした言葉に、アルバは満足そうに笑った。

「そのことに気付けたなら、今日の体験は大成功だ。」

店を出る頃には夕方に近づいていた。

料理人。

料理を作るだけの仕事ではない。

誰かを笑顔にするために、たくさんの人が支え合う仕事。

まだ自分に合う仕事は分からない。

それでも、また一つ新しい世界を知ることができた。

イリスは明日の司書体験に思いを巡らせながら、ライラへの帰り道を歩き始めた。

「職業は転生です!」第22話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。

https://x.com/yoizuki_nvl

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