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20 初日

やりたいことは、最初から決まっている人ばかりじゃない。 分からないなら、見てみればいい。 触れてみればいい。 一歩踏み出した先で、初めて見つかるものもあるのだから。

―世界を旅する少女の物語―

職業体験ツアー初日。

朝の商業ギルド前には、多くの参加者が集まっていた。

イリスも参加証を手に、少し緊張した面持ちで立っている。

子供から大人まで幅広い年齢の人が集まっていた。

「皆さん、おはようございます。本日から一週間、職業体験ツアーを行います。毎日違う職業を体験しながら、自分に合った仕事を探してみてください。それでは、1日目の商人体験へ向かいましょう。」

そう言われて案内されたのは、ファキリスでも特ににぎやかな市場だった。色とりどりの野菜や果物、焼きたてのパンの香り、布や雑貨を並べる店。あちこちから店員の元気な声が響き、市場は朝から活気にあふれていた。

「すごい……。」

イリスは思わず辺りを見回す。

こんなに多くの店が集まっている場所を見るのは初めてだった。

案内役は市場の奥を指差した。

「あちらでは、朝早くから仕入れが行われています。」

視線の先には、広いスペースがあった。

「仕入れは日の出前から始まることが多いんです。皆さんが来る頃には、ほとんどのお店が準備を終えています。もう仕入れ作業は終わってしまっているので今日は実際の仕入れはできませんが、商人がどのように商品を選び、店を開いているのかを説明しながら体験していただきます。」

イリスは小さく頷いた。

(だから朝からこんなに商品が並んでいるんですね。)

参加者たちは八百屋を営む男性の店へ案内された。

「ようこそ。」

日に焼けた店主が笑顔で迎える。

「商人の仕事は、物を売ることだけじゃない。例えば、この野菜。」

そう言って、一つの野菜を手に取った。

「新鮮なものを仕入れるのはもちろんだけど、いくら良い品でも値段が高すぎれば売れない。」

続いて少し形の悪い野菜を持ち上げた。

「逆に、少しくらい形が悪くても品質が良ければ売れる。何を仕入れるか。いくらで売るか。それを考えるのも商人の仕事なんだ。」

イリスは真剣に話を聞いていた。

(売るだけじゃないんだ……。)

説明が終わると、今度は商品の陳列を体験することになった。

「売れ筋の商品は目立つ場所へ。」

「重い物は下。」

「同じ種類の物はまとめる。」

店主がコツを教えていく。

参加者たちも実際に商品を並べ替え始めた。

イリスも果物を一つずつ丁寧に並べる。

「そうそう。」

店主が頷く。

「お客さんが見やすい並べ方を考えるのも大切なんだ。」

「今日は販売も体験してもらう。」

しばらくすると、お客さんがやって来た。

接客……。

ライラで店番をした日のことを思い出す。

あの時は何も分からず慌ててばかりだった。

でも今回は、一人ではない。

店主も近くで見守ってくれている。

深呼吸を一つ。

「いらっしゃいませ。」

女性客が果物を手に取る。

「これを三つください。」

イリスは値札を確認する。

「銅貨九枚になります。」

女性は代金を渡し、イリスは商品を袋へ入れて手渡した。

「ありがとうございました。」

女性は笑顔で頷き、店を後にする。

「上手だったよ。」

店主が声をかける。

「ちゃんと相手の目を見て話せていた。」

「ありがとうございます。」

イリスはほっと胸をなで下ろした。

前回よりも落ち着いて接客ができた気がする。

昼前になると、市場の賑わいも少し落ち着いてきた。

参加者たちは店の裏へ集まり、一息つく。

店主は木箱へ腰掛けながら話し始めた。

「商人は接客だけできても駄目なんだ。商品の管理、仕入れ、売上の計算、お客さんとの信頼。全部合わせて商人という仕事になる。」

イリスは静かに頷く。

ライラで見てきたノエルの姿が頭に浮かぶ。

魔道具を作り、素材を集め、値段を決め、お客さんと話す。あれも全部、商人としての仕事だったのだ。

「ノエルも……毎日こんなことを考えていたんですね。」

思わず小さく呟く。

体験終了の時間になり、参加者たちは市場の入口へ集まった。

案内役が笑顔で言う。

「1日目、お疲れさまでした。商人は物を売る仕事ではありますが、それ以上に、人との信頼を積み重ねる仕事でもあります。職業選びの参考にしてみてください。」

その言葉は、イリスの胸に残った。

市場を後にしながら、イリスはゆっくりと空を見上げる。商人という仕事は、自分が思っていたよりずっと奥が深かった。

けれど――

自分が商人になりたいかと聞かれると、まだ答えは出ない。それでも今日、新しい世界を一つ知ることができた。そのことだけは、確かだった。

明日は2日目。

『ものづくり工房』

ポスターに書かれていたその言葉を思い出しながら、イリスは少しだけ胸を弾ませてライラへの帰り道を歩き始めた。

「職業は転生です!」第20話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。

https://x.com/yoizuki_nvl

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