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18話 生きる意味

誰かのために生きることは、きっと素敵なことだ。

でも、それだけでは自分の人生にはならない。

いつか訪れる別れの日までに。

自分だけの道を見つけられたなら――

その一歩には、きっと意味がある。

―世界を旅する少女の物語―

翌日。

ライラには穏やかな朝の光が差し込んでいた。

店内には誰もおらず、聞こえてくるのはアトリエから響く金属音だけ。

カチ、カチ、と工具が小刻みによく鳴っている。

イリスは本を閉じると、小さく息をついた。

「……少し、休憩しよう。」

部屋を出て階段を降りる。

一階に近づくにつれて、いつもの魔鉱石と薬品の匂いが濃くなる。アトリエを覗くと、ノエルが新しい魔道具を作っていた。

「おはよう。」

ノエルは顔を上げずに声だけ返した。

「おはようございます。」

イリスは机の上を眺める。

細かな部品、見慣れてきた工具。

ここへ来た頃は何も分からなかったものが、今では少しだけ理解できるようになっていた。

「昨日は店番、お疲れさま。助かったよ。」

ノエルが工具を動かしたまま言う。

「いえ……私、ほとんど何もできませんでした。」

「そんなことないよ。ちゃんと販売もできてたし、伝言も分かりやすくまとめてくれてた。」

イリスは少しだけ照れくさそうに笑った。

「そう言ってもらえると嬉しいです。」

少しだけ沈黙が流れる。

その静かな空気の中で、イリスはふと口を開いた。

「……ノエル。」

「ん?」

「私、お店をもっと手伝いたいです。」

工具を動かしていたノエルの手が、止まった。

昨日の店番。何も分からず慌ててばかりだった。 それでも、ノエルは「助かった」と言ってくれた。 だから今度は、もっと力になりたいと思った。

だけどノエルは険しい顔で言った。

「気持ちは嬉しい。」

そう言って工具を置く。

「でも、私はイリスに店の仕事を覚えてほしいとは思ってない。」

「……え?」

思わず聞き返す。予想していた返事とは違っていた。

「私じゃ力不足ってことですか……?」

少し不安そうに尋ねる。

「違う。そういう意味じゃない。」

椅子から立ち上がり、イリスの方へ向き直る。

「イリスには、イリスの人生を歩いてほしいんだ。私はいつまでもこの世界にいれるわけじゃない。たぶん、そう遠くない未来、この世界からノエルという存在は消えてる。それにずっとここにいたらこの世界にイリスが転生してきた意味が無くなっちゃうでしょ。」

いつになるかは分からない。 それでも、自分がこの世界を離れる日は、いつか必ず来る。だからこそ、イリスにはもっと広い世界を見てほしい。 この世界で、自分だけの人生を歩んでほしい。

ノエルはそう思っていた。

その言葉に、イリスは目を瞬かせた。

「消えるってどういうことですか...?嘘、ですよね?」

「ごめんね。これは『職業:転生』としての運命なんだ。私は数多の世界を移動する。そして私という存在は1人しか存在しない。だから複数の世界に存在できないんだ。」

あまりにも突然の話にイリスはどうしたらいいのか分からなかった。

「イリスは本が好きなんでしょ?」

「はい。」

「だったら本で得た知識を使って自分の生きたいように生きればいい。」

続けてノエルが言う。

「司書や秘書、研究者でもいい。この世界には冒険者になる人もいるし、私みたいに商売をする人もいる。何をやるかはイリス次第だよ。」

少しだけ窓の外へ視線を向ける。

街を歩く人々。

それぞれが、自分の生活を送っている。

「この世界には、いろんな生き方がある。」

静かな声だった。

「だから、私の手伝いをするために人生を使うんじゃなくて。イリスがやりたいことを見つけてほしい。」

優しく、それでいて真っ直ぐな言葉だった。

イリスは少し俯く。

「……でも、まだ何も見つかってません。」

本は好き。知らないことを知れるから。

けれど、それを将来どうしたいのかまでは分からない。

ノエルは微笑む。

「今すぐ見つける必要なんてないよ。」

その言葉に、イリスは顔を上げる。

「ゆっくり探せばいい。イリスはまだファキリスに来たばっかなんだから。いろんなものを見て。いろんなことを知って。その中で『これをやりたい』って思えるものが見つかれば、それで十分。」

アトリエに静かな時間が流れる。

イリスはその言葉を胸の中で何度も繰り返した。

そして、小さく頷く。

「……はい。」

今のイリスはそう言うしかなかった。

「さて。重い話は終わりにして今を生きよ。」

工具を持ち直す。

「私は仕事に戻るね。イリスは?」

「……少し街を歩いてみようと思います。」

その返事を聞いたノエルは、嬉しそうに笑った。

「いってらっしゃい。」

「行ってきます。」

ライラの扉を開ける。

外には、いつもと変わらないファキリスの街並みが広がっていた。

けれど今日は、昨日までとは少しだけ違って見えた。

知らない世界を知るためではなく。

自分の未来を探すために。

イリスはゆっくりと街へ歩き出した。

「職業は転生です!」第18話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。少しずつですが、「職業は転生です!」という作品の根幹や、ノエルという存在についても見えてきたのではないかなと思います。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。

https://x.com/yoizuki_nvl

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