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17 店番

知らないことは、少しずつ減っていく。

けれどその先には、また新しい発見が待っている。

小さな一歩の積み重ねが、人を成長させるのだから。

―世界を旅する少女の物語―

ライラに残ったイリスは、さっそく訪れた客を前に緊張していた。

「ノエルは仕入れに出かけています。」

「あら、そうなの。」

女性は少し残念そうに言った。

「何かお急ぎの用事ですか?」

「そんなに急ぎじゃないわ。ちょっと魔道具の相談をしたくてね。」

女性は店内の商品を眺めながら答える。

イリスは内心ほっとした。

「よかった……。」

小さく呟いた声は女性には聞こえなかったようだ。

「あなた、もしかしてノエルちゃんのお弟子さん?」

「違います。居候です。」

「居候?」

弟子でも店員でも家族でもない。

けれど今はライラで暮らしている。

自分でも不思議な関係だ。

「今日はノエルが仕入れに出かけるからと初めて店番を頼まれて。」

「じゃあ、帰ってくるまで待たせてもらおうかしら。」

「えっ?」

「どうせノエルちゃんのことだから詳しい説明もせずに出かけちゃったんでしょ?今日は予定が空いているの。つき合うわ。」

女性は近くの椅子へ腰掛ける。

しばらく女性と話していると、緊張も少しずつ薄れていった。

すると再びベルが鳴る。

カラン。

今度は年配の男性だった。

「あれ、ノエルちゃんいないのか?」

「仕入れに出ています。」

「そうか。」

男性は棚へ向かう。

「この火打ち石を一つ貰えるかい?」

「え。」

イリスは固まった。

販売だ。本当に販売だ。どうすればいい。

今まで接客をしたことがないイリスには、どうすればいいのか分からない。

頭の中で必死に記憶を探る。

確か棚のところに値札が付いていたはず。

『火打ち石 銀貨2枚』

と書いてある。

「えっと……銀貨2枚です。」

「はいよ。」

男性は慣れた様子で代金を置いた。

イリスは商品を渡す。

男性は礼を言い、店を出て行った。

扉が閉まる。

静寂。

「できた……。」

思わず呟く。

たった一つ売っただけなのに達成感があった。

女性はその様子を見てくすりと笑う。

「初めてだったの?」

「はい。ノエルに急に頼まれて。」

「ノエルちゃんらしいわね。安心して。ちゃんと接客できてたわよ。」

その言葉に少しだけ胸が軽くなった。

その後も客は何人か訪れた。

修理依頼の相談。

ノエルへの伝言。

イリスは必死に対応する。

分からないことは紙に書き留めた。

「あら、もうこんな時間。お夕飯の準備しないとだから帰るわね。また来るわ。」

「長い間待っていてくれたのにごめんなさい。」

「いいのよ。たくさん話せて嬉しかったわ。いつでも来れるから気にしないで。」


ライラを出て数十分後、ノエルは素材店へ到着していた。

「よぉ、ノエル。相変わらず来るのが速いな。」

店主が手を上げる。

「注文してた素材、用意できてるぞ。」

「助かる。」

カウンターへ木箱が置かれる。

中には紫に輝く鉱石。

魔力伝導率の高い魔導鉱石だった。

ノエルは一つ手に取る。

魔力を流して確認する。

問題ない。品質も良好だ。

「今回は当たりだね。」

「毎回当たりだろ。俺は上質な素材しか扱わねーよ。」

店主が不満そうに言う。

ノエルは小さく笑った。

代金を支払い、木箱をマジックバッグへ収納する。

これで本来の目的は終わりだった。

だがもう一つ用事がある。

薬草の納品だ。

ノエルはギルドの受付へ立っていた。

「薬草依頼の納品をお願い。」

「かしこまりました。ギルドカードと依頼書、納品物の提示をお願いします。」

ノエルが受付嬢に言われたものを渡す。

「Aランクのノエル様ですね。依頼の達成を確認します。」

受付嬢が薬草を数える。

1本、2本、3本...

丁寧に確認していく。

「20本確認しました。依頼達成です。お疲れ様でした。」

依頼票へ判が押される。

報酬の入った袋が差し出された。

ノエルは受け取る。

銀貨数枚。

ついでに受けた依頼としては十分だった。

「ありがとうございます。」

「こちらこそ。」

受付嬢が微笑む。

「ノエルさんは本当に効率が良いですね。」

「移動のついでだから。」

「素材採取依頼は受けてくれる人があまりいないので他の冒険者にも見習ってほしいです。」

ノエルは苦笑した。

ふと依頼掲示板を見る。

新しい依頼が何枚か貼られていた。

だが今は受けない。

ライラにはイリスが一人で店番をしている。

あまり遅くなるのも良くない。

「じゃあ帰る。」

「お気をつけて。」

ギルドを出る。

町外れまで移動し、人目がないことを確認する。

腰の魔道具へ魔力を流した。

身体が浮き上がる。

「さて。」

夕方までには帰れそうだ。

ノエルは空へ飛び立った。

「イリス、大丈夫かな。」

少しだけ気になった。

今頃慌てているかもしれない。

あるいは本を読んでいるかもしれない。

想像すると少し面白かった。

そして夕方。

ファキリスの街が見えてきた。

ライラもすぐそこだ。

ノエルは高度を下げる。

店の前へ降り立ち、扉を開いた。

カラン。

「ただいまー。」

店内を見渡す。

カウンターには少し疲れた顔のイリスがいた。

「お帰りなさい……。」

声に疲労が滲んでいる。

「そんなに大変だった?」

「大変でした。」

即答だった。

「お客さん何人来たと思ってるんですか。」

「何人?」

「7人です。」

予想より多かった。

ノエルは少し驚く。

「へぇ。」

イリスはカウンターの上の紙を差し出した。

販売した商品、修理依頼、伝言。

きちんとまとめられている。

ノエルは一枚ずつ目を通した。

そして頷く。

「初めてにしては上出来。」

「本当ですか?」

「うん。」

嘘ではなかった。

むしろ想像以上だった。

イリスの表情が少しだけ明るくなる。

その様子を見てノエルは笑った。

初めての店番は大変だった。

けれど、イリスにとっては確かな一歩だった。

夕日に染まるライラの中で、今日という一日が静かに終わろうとしていた。

「職業は転生です!」第17話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。土曜日の疲労で誤字を大量生産してしまい、その修正に時間がかかりました。もう誤字が残っていないことを祈ります。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。

https://x.com/yoizuki_nvl

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