14 浅層と中層
知らない場所には、不安もある。
けれど、それ以上に知りたいと思うこともある。
一歩踏み出した先には、 きっと新しい発見が待っている。
―世界を旅する少女の物語―
中層の通路を進みながら、ノエルは周囲を見回していた。
「んー……。」
「どうしたんですか?」
「帰り道探してる。」
「探してるんですか!?」
「だってここが中層だってことしか分からないし。」
ノエルは軽く手を振る。
「大丈夫大丈夫。階段か転移陣見つければ帰れるし。」
「えっ、それどこが大丈夫なんですか?」
その言葉に安心していいと思えない。
二人は中層の通路を歩き始める。
壁の発光石は浅層よりも明るい。
それなのに、中層の方が不気味に感じるのは、漂う魔力の濃さのせいだろうか。
同じダンジョンのはずなのに、まるで別の場所へ来たような気分だった。
――ガサッ
そのとき。
二人の背後にあった岩陰から何かが飛び出した。
狼のような姿をした魔物だった。
大きさは大型犬ほど。
鋭い牙をむき出しにしながらこちらを睨んでいる。
「魔物!」
イリスが声を上げる。
ノエルは振り返りもせず指を向けた。
「フラマ。」
炎が走る。
魔物は一瞬で炎に包まれ、そのまま倒れた。
「……終わったんですか?」
「終わった。」
あまりにもあっさりしていた。
しばらく歩く。
突然、イリスが立ち止まった。
「あの、これって転移陣ですか?さっき見たものと同じ気がするんですけど。」
イリスが指差した壁際には魔法陣が刻まれていた。
「よく気づいたね。たぶん上の階層行き。」
軽い調子で言う。
「たぶん?」
「違ったら別の場所。」
「それ大丈夫じゃないですよね?」
「大丈夫だって。」
ノエルは迷いなく魔法陣へ足を乗せた。
結果として。
ちゃんと低層へ戻れた。
「ほら。」
「本当に戻れました……。」
「言ったでしょ。」
ノエルは少し得意そうだった。
二人は風晶石を集めながら進んでいった。
カチ、カチ。
次々と風晶石を採取していく。
「結構必要なんですね。」
イリスがマジックバックを見る。
すでにかなりの量が入っていた。
「よく使うからね。」
ノエルは次の結晶へ工具を当てる。
「飛行にも使うし、温度調整系にも使うし。」
カチ。
「修理でも使う。」
カチ。
慣れた動きだった。
気づけば、マジックバックの中は十分な量の風晶石で埋まっていた。
「よし。」
ノエルは立ち上がる。
「こんなもんかな。」
「帰るんですか?」
「うん。」
そう言ってダンジョンの出口へ向かう。
入り口から差し込む夕日の光が見えた。
いつの間にか、かなり時間が経っていたらしい。
ファキリスへ戻る頃には、街は夕暮れに染まっていた。
通りには帰宅する人々の姿がある。
店の明かりも少しずつ灯り始めていた。
「ただいま。」
ノエルが店の扉を開く。
見慣れたライラの店内。
魔鉱石の匂い。
並んだ魔道具。
静かな空気。
「なんだか安心しますね。」
イリスが小さく呟く。
ノエルは少しだけ笑った。
「家だからね。」
短い言葉だった。
けれど、不思議と温かかった。
イリスは店内を見回す。
ここへ来てまだ数日。
それでも――
少しずつ、この場所が自分の居場所になっている気がした。
店の窓の外では、夕日がゆっくりと沈んでいく。
ファキリスの一日は、静かに終わろうとしていた。
「職業は転生です!」第14話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。
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