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13 素材集め

知らない場所には、不安もある。

けれど、それ以上に知りたいと思うこともある。

一歩踏み出した先には、 きっと新しい発見が待っている。

―世界を旅する少女の物語―

翌日。

ライラの店内には、まだ静かな空気が流れていた。

ノエルはカウンターに突っ伏したまま、小さく唸る。

「……眠い。」

机の上には、魔道具用素材の在庫表。

ぼんやりした目のまま紙へ視線を落とし、 数秒後。

「……風晶石ないじゃん。」

小さくため息がでる。

風晶石は店でよく使う素材の一つだった。

「おはようございます。」

後ろから声が聞こえる。

ノエルはカウンターに突っ伏したまま、ひらひらと手を振った。

「……おはよ。」

イリスはそんなノエルを見て、少しだけ首を傾げた。

「寝不足ですか?」

「いや、普通に朝弱いだけ。」

さらっと返ってくる。

そのままノエルは在庫表を持ち上げ、小さくため息を吐いた。

「素材足りないんだよね。」

「買いに行くんですか?」

「んー……今回は採りに行く。」

「採る……?」

ノエルはゆっくり顔を上げた。

「ダンジョン。」

その一言に、イリスが小さく首を傾げた。

「……ダンジョン?迷宮、じゃなくて?」

ノエルは少しだけ考える。

「あー、そこは別物。」

「別物?」

「ダンジョンは魔物が多い場所。迷宮は罠とか構造変化が多いやつ。これは全世界共通だね。」

「……違うんですね。」

「まあ、両方ある世界もあるけど。」

軽い調子で付け足す。

「今回は普通にダンジョン。」

「危なくないんですか……?」

「場所によるかな。」

ノエルはカウンターから体を起こし、引き出しにしまっていた短剣を手に取る。

「今日行くところは浅い階層だし。」

「浅い……。」

イリスには基準が分からない。

ノエルはそんな反応を見て、小さく笑った。

「まあ、大丈夫だよ。」

そう言いながら、机の上の紙を軽く持ち上げる。

「素材って買うと結構高いんだよね。」

「そうなんですか?」

「うん。自分で採った方が安い。だから定期的に取りに行ってる。」

あまりにも現実的な理由だった。

イリスは少しだけ目を瞬かせる。

けれど、ノエルにとってはそれも“日常”なのだろう。

「イリスも来る?」

「えっ。」

突然の言葉に目を瞬かせる。

「でも、私……戦えません。」

「別に戦わなくていいよ。」

ノエルは肩をすくめる。

「今回は素材集めメインだし。」

少し迷う。

けれど――

「……行ってみたいです。」

気づけば、そう答えていた。知りたいという気持ちが怖さより少しだけ強かった。

ノエルは少しだけ目を細める。

「ん。じゃ、準備しよっか。」


ファキリスの外れ。

街道から少し離れた岩場の先に、その入口はあった。

大きく口を開けた洞窟。

周囲には、何人かの冒険者らしき姿も見える。

「ここが……」

イリスは小さく呟く。

ダンジョン。

本でしか見たことのなかった場所。

洞窟の奥からは、冷たい風が流れてきていた。

「そんな緊張しなくても平気だって。」

ノエルが軽く笑う。

「今日はほんと浅いところだけだから。」

そう言って、先に中へ入っていく。

イリスも慌てて後を追った。

中は思っていたより明るかった。

壁に埋まった淡い鉱石が、自然に光を放っている。

「綺麗……。」

「発光石。」

ノエルは軽く壁を見ながら歩く。

「この辺のは小さすぎるから素材としてはあんまり使わないけど。」

洞窟の中には、水滴の落ちる音が静かに響いていた。

しばらく進んだところで、ノエルが立ち止まる。

「ん、あった。」

しゃがみ込む。

岩陰には、小さな緑色の結晶が埋まっていた。

「これが風晶石。」

ノエルは慣れた様子で工具を取り出す。

カチ、と小さな音。

無駄のない動きで結晶を切り離していく。

「採り方まであるんですね。」

「雑にやると割れるからね。」

ノエルは小さく笑った。

再び歩き出そうとした、そのとき。

「この辺、採取系トラップ多いから気をつけてね。」

「トラップ……?」

イリスが周囲を見回す。

その直後。

――カチ

「……え?」

床の魔法陣が淡く光った。

「あっ。」

次の瞬間。

景色が反転した。

「まぶしいっ!」

気づけば、別の場所だった。

空気が重い。

さっきより暗い。

洞窟の壁から漂う魔力も、明らかに濃い。

「ここ……」

イリスが周囲を見回す。

その隣で、ノエルが軽く辺りを見渡した。

「んー……中層くらいかな。」

「中層!?」

イリスの声が裏返る。

「大丈夫大丈夫。今日は浅層の予定だったからあまり装備持ってきてないけど、どうにかなるから。」

軽い。

全然緊張感がない。

ノエルは近くの岩壁を見て、逆に少し驚いたように目を細めた。

「あ。」

「え?」

「これ、星晶鉱じゃん。」

岩壁には、淡く青白く光る鉱石が埋まっていた。

「レアなやつ見つけた。」

ノエルは少し嬉しそうに笑う。

「……そんな余裕あるんですか?」

「あるよ?」

即答だった。

ノエルは工具を取り出し、慣れた様子で星晶鉱を切り離していく。

カチ、と小さな音が響く。

その最中。

――グルルル……

低い唸り声。

暗闇の奥から、大きな影が姿を現した。

浅層にいた魔物より、明らかに大きい。

鋭い牙。

重たい足音。

イリスの背筋が強張る。

「ノ、ノエル……!」

「んー、やっぱ中層だと出るか。」

ノエルはため息混じりに立ち上がった。

その表情に焦りはない。

指先に、淡い光が灯る。

「フルミナ。」

短い言葉。

次の瞬間。

――バチィッ!!

雷のような光が走った。

魔物が吹き飛ぶ。

轟音と共に壁へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

静寂。

「……終わり。」

ノエルは何事もなかったように星晶鉱を拾い上げる。

「今日は結構当たりかも。」

そんな感想だった。

イリスはしばらく言葉が出なかった。

ダンジョン。

危険な場所。

そのはずなのに――

ノエルにとっては、日常だった。

「職業は転生です!」第13話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。毎週日曜日20時頃に更新しているので、また読んでいただけると嬉しいです。Xでも作品の告知などをしているので、もしよければフォローお願いします。

https://x.com/yoizuki_nvl

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