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第7話  対象だった



 ゲームセンターを出て、

 空気が変わった。


 昼間より静かで、

 足音がやけに響く。


 マイケルは隣を歩いている。

 近いけれど、触れない。


 さっきの言葉が、

 頭から離れなかった。


「好きな人の妹だから」


 その一言。


 冗談でも、

 言い間違いでもない。


 言い切りだった。


 ――好きな人。


 百合じゃない。

 妹、という言い方だった。


 俺は、

 何度もその構造を頭の中でなぞる。


 それでも、

 すぐには受け取れない。


 受け取ったら、

 前に出てしまう。


 前に出たら、

 また同じことが起きる。


 百合が、

 代わりにされる。


 あのときの声が、

 よみがえる。


「健治と付き合えなかったから」


 胸が、

 ぎゅっと縮む。


 だから俺は、

 黙って歩いた。


 マイケルも、

 無理に話しかけてこない。


 気を遣っているのが、

 はっきりわかる距離だった。


 それが、

 逆に落ち着かない。


 少し歩いて、

 路地に入る。


 アスファルトの道。

 街灯は少ない。


 足音が二つ分だけ響く。


 ここで、

 聞かなければ。


 このまま黙ったら、

 また「引く側」に戻る。


 それが、

 安全だと知っている。


 でも。


 それだけでいいのか。


 百合を守るために、

 自分を消す。


 それは、

 本当に百合のためなのか。


 わからなくなっていた。


 マイケルが、

 足を止めた。


 俺は半歩先を歩いていたから、

 その分だけ距離ができる。


「ケンジ」


 名前を呼ばれて、

 振り向く。



 さっきまでの会話が、

 頭の中に残っている。


 ――好きな人の妹は、大切にする。


 あの言葉の意味を、

 まだ整理しきれていない。


 顔が、熱い。


 頬だけじゃなく、

 耳のあたりまで熱が回っているのがわかる。


「マイケル……好きな人って」


 声が、少し上ずった。


「……俺、か?」


 言った瞬間、

 自分で恥ずかしくなる。


 視線を逸らしかけたところで、

 マイケルの声が返ってきた。


「イエス」


 短い。

 はっきりしている。


 否定も、冗談もない。


 胸の奥が、

 どくっと音を立てた。


 マイケルは、

 俺の反応を見ている。


 近づかない。

 触れない。


 逃げ道を残したまま、

 低い声で言う。


「I Love Men」


 英語だった。


 でも、意味はわかる。


「……ボク、こんな男だけど」


 少しだけ、間を置く。


「大丈夫?

嫌じゃない?」


 確認だった。


 押しつけじゃない。

 期待でもない。


 俺は、

 その場から動かなかった。


 逃げなかった。


 喉が少し乾いて、

 唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえる。


「……嫌じゃない」


 それだけ答えた。


 声は低く、

 思ったより落ち着いていた。


 その瞬間、

 マイケルが一歩近づく。


 距離が、急に詰まる。


 吐息がかかる。


 昼間歩いてきたせいか、

 体温が高い。


 次の瞬間、

 唇が触れた。

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