第6話 百合の話をする日
マイケルと二人で外に出るのは、
その日が初めてだった。
「ゲーセン、行こう!」
いつもの調子で言われて、
断る理由が見つからなかった。
百合は家に残る。
それだけで、
胸の奥が少し軽くなる。
――今日は、聞く。
百合のことを。
それが目的だった。
ゲームセンターは、
音が大きい。
人も多い。
話を切り出すには、
ちょうどいい。
クレーンゲームの前で立ち止まる。
マイケルは、
器用にレバーを動かしている。
「マイケル」
呼びかける。
「ん?」
「……百合のことなんだけど」
言った瞬間、
マイケルの動きが止まった。
でも、
嫌そうな顔はしない。
「ユリ?」
「そう」
一度、言葉を選ぶ。
「距離、近いだろ」
できるだけ、
責めない言い方をする。
「日本だと、
ああいうの、誤解されやすい」
マイケルは少し考えてから、
肩をすくめた。
「ソーリー」
軽い。
でも、
ごまかしてはいない。
「でも、ユリは家族だ」
即答だった。
その言い方に、
引っかかりを覚える。
「……家族?」
「うん」
当たり前みたいに言う。
「大事」
その一言で、
次の言葉が詰まる。
俺は、
深呼吸して続けた。
「……百合は、似てるって言われるのを嫌がる」
マイケルが、こちらを見る。
「ツイン、だよね?」
「そう」
「似てる、ダメ?」
「……ダメなこともある」
簡単には説明できない。
「代わり、みたいに扱われたことがある」
言葉にすると、
胸の奥が少し痛む。
マイケルは、
真剣な顔になった。
「それ、ユリ?」
「……ああ」
百合本人から聞いた話じゃない。
俺が見て、
俺が想像したことだ。
でも、
間違っていないと思っている。
「だから」
続ける。
「俺は、百合がそう見られるのが嫌だ」
マイケルは、
何も言わずに聞いている。
俺は、
その沈黙に耐えながら、
もう一つ付け足した。
「俺も、似たようなこと言われてきた」
自分から言うつもりはなかった。
でも、
出てしまった。
「……耳とか」
マイケルの視線が、
俺の髪に向く。
反射的に、
少しだけ耳を隠す。
「昔から、よく触られた」
『大きいね』
『縁起いいね』
そんな言葉。
同じ顔で、
同じ背丈なのに。
「だから、
比べられるのが嫌なんだと思う」
百合も。
俺も。
マイケルは、
少しだけ間を置いて言った。
「……問題ない」
「?」
「ケンジの耳」
視線が逸れない。
「いい」
短い言葉。
でも、
軽くはなかった。
俺は、
それ以上何も言えなかった。
クレーンゲームの音が、
また耳に戻ってくる。
「ユリのこと」
マイケルが言う。
「代わり、しない」
強い言い切りだった。
「好きな人の妹だから」
その言葉で、
胸が一度、大きく鳴る。
――好きな人。
「……ありがとう」
俺はそう言った。
それは、
兄としての礼だった。




