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第5話  聞いてしまった言葉



 高校二年の冬だった。


 放課後、

 昇降口の近くで声をかけられた。


「健治くん」


 同じクラスの女子だった。

 名前を呼ばれた時点で、用件はだいたいわかる。


 俺は立ち止まった。


「私、健治くんの事好き」


「……ごめん」


 そう言った。

 理由を並べるのは得意じゃない。

 でも、期待させたままにする方が嫌だった。


「他に好きな人がいるとかじゃない」


 嘘はつかない。


「ただ、付き合えない」


 それだけ伝えた。


 彼女は泣かなかった。

 怒りもしなかった。

 少しだけ笑って、うなずいた。


「そっか」


 それで終わった。


 数日後のことだ。


 中庭を横切ろうとしたとき、

 聞き覚えのある声がした。


「健治くんと付き合えなかったからさ」


 足が止まる。


 声の主は、あのときの彼女だった。

 相手は友達らしい。

 俺の存在には気づいていない。


「……それで、百合と付き合ってる」


 一瞬、意味がわからなかった。


「だって、似てるでしょ?」


 笑い声。


「顔も、背丈も」


 続く言葉が、耳に残る。


「百合なら、代わりになるかなって」


 息が止まった。


 その場から動けなかった。

 声も出なかった。


 彼女たちは、俺に気づかないまま去っていった。


 そのあとだった。


 数週間後、

 放課後の駅前で、

 百合がその子と並んで歩いているのを見た。


 手はつないでいない。

 でも、距離が近い。


 百合は、

 何も知らない顔で笑っていた。


 俺は、声をかけなかった。


 かけてはいけないと思った。


 その日、家に帰っても、

 百合には何も言わなかった。


 言えなかった。


 後から聞いた。

 彼女は、本気で百合を好きになったらしい。


 付き合った理由が、途中で変わったのかもしれない。

 それでも、最初の言葉は消えない。


「健治と付き合えなかったから」


 その一言が、

 俺の中に残った。


 俺が前に出ると、

 百合が代わりになる。


 俺が断ると、

 百合が選ばれる。


 それが偶然でも、

 本人の問題でも。


 俺は、そう理解してしまった。


 それからだ。


 誰かが俺に近づくたび、

 一歩引くようになった。


 最初から線を引く。

 期待させない。


 百合の隣では、

 守る側に回る。


 それが一番安全だと思った。


 マイケルが距離を詰めてきたときも、同じだった。


 近づく理由は百合だ。

 そう決めた。


 自分が対象だなんて、

 考えない方が楽だったから。


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