表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

第3話 早すぎる隣人



 マイケルが家に来る頻度は、

 正直、思っていたより早く増えた。


 引っ越しの挨拶から、まだ三日しか経っていない。


 夕方、

 リビングでテレビをつけたまま、

 俺はソファに座っていた。


 キッチンからは、

 百合が夕飯の準備をしている音がする。


 そのとき、

 玄関のチャイムが鳴った。


「百合ー」


 俺は声をかける。


 百合が火を弱める音がして、

 玄関へ向かう足音がした。


 ドアの向こうから、

 あの声が聞こえる。


「ハロー!」


 早い。


 俺は立ち上がり、

 玄関の方を見る。


 百合がドアを開けると、

 マイケルが立っていた。


 今日は青いTシャツ。

 胸の中央に、星のマーク。


 目立つ。


 百合が一歩下がる前に、

 マイケルが一歩近づいた。


 ――近い。


 俺は、その距離を見ただけで、

 少し肩に力が入る。


「こんにちは」


 百合はそう言いながら、

 横にずれて距離を取る。


 それを見て、

 少しだけ安心した。


「遊びに来た!」


 理由はそれだけらしい。


「今、大丈夫?」


「……少しなら」


 百合は、そう答えた。


 断らないところが、

 百合らしい。


 でも、

 それが心配でもある。


 リビングに通すと、

 俺はソファから立ち上がった。


「いらっしゃい」


 髪が、ちゃんと耳を隠しているか、

 一瞬だけ気にする。


 マイケルは俺を見るなり、

 ぱっと表情を明るくした。


「ケンジ!」


 呼び方が自然すぎる。


 馴れ馴れしいとも言える。


 俺は軽くうなずき、

 距離を取ったまま立つ。


 百合が言う。


「お茶、入れますね」


「ユリ、ありがとう!」


 その呼び方に、

 百合の肩がほんの少し強張るのが見えた。


 気づいたのは、俺だけだと思う。


 百合がキッチンに立つ。


 そのあと、

 マイケルの足音が続いた。


「手伝う!」


 ……やっぱり近い。


 俺は動かなかった。


 ここで口を出すと、

 余計に空気が硬くなる。


「大丈夫です」


「ノープロブレム!」


 百合が一歩横にずれる。


「キッチン、狭いので」


「オー! ごめん!」


 すぐに下がる。


 ちゃんと謝る。


 悪意は、ない。


 だから余計に、

 扱いづらい。


 百合とマイケルがリビングに戻ると、

 俺は黙ってコップを二つ用意した。


 手が、

 少しだけ硬い。


 そのとき、

 インターホンが鳴った。


 玄関に立っていたのは、

 綾部貴子だった。


「先輩、これ……」


 ゼミの資料。


 百合が受け取り、

 中に通す。


 綾部がリビングに入った瞬間、

 視線が止まったのがわかった。


 マイケルを見た。


 一瞬だけ、表情が固まる。


「ハロー!」


 マイケルが先に声をかける。


「ユリの友達?」


「後輩です」


 百合が言う前に、

 綾部が答えた。


 声が、少しだけ硬い。


「じゃあ、ボクと友達だね☆」


 その言い方に、

 綾部の眉がわずかに動く。


 警戒。


 はっきりしている。


 百合が二人の間に立つ。


「綾部、座って」


 綾部は、

 百合の隣に座った。


 ――当然だ。


 安心できる位置だ。


 マイケルは、

 迷いもなく俺の隣に腰を下ろす。


 百合から、少し離れる。


 その配置を見て、

 俺は内心で少しだけ頷いた。


 少なくとも、

 今は百合に触れない。


 それでいい。


 俺は、

 ほとんど話さなかった。


 ただ、

 そこにいた。


 百合と、綾部と、

 マイケルの間に。


 それが、

 俺の役目だと思っていた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ