第18話 同じ場所で、同じ言葉を
昼過ぎのリビングは、妙に静かだった。
テーブルの上にはマグカップが四つ。
座る位置は、誰も指示していないのに自然に決まっている。
俺の隣に、マイケル。
向かいに、百合。
その隣に、貴子。
視線を落とすと、百合と貴子の手が、触れたままになっているのが見えた。
絡めてはいない。
でも、離れてもいない。
――ああ、そういうことか。
先に口を開いたのは、マイケルだった。
背筋を伸ばして、百合を見る。
日本語だ。ゆっくりで、慎重。
「ユリ」
名前を呼ばれた百合が、顔を上げる。
「ボク、ケンジと」
一拍。
「付き合ってる」
言い切りだった。
逃げも、冗談もない。
俺は、何も言わなかった。
否定する理由がない。
百合が、落ち着いた声で聞く。
「……確認した?」
それに、マイケルは即答した。
「した」
「嫌じゃないか」
「ちゃんと、聞いた」
短い言葉を、区切るように。
百合の視線が、俺に向く。
俺は、一瞬だけ視線を外してから、うなずいた。
「……事実」
それで十分だと思った。
百合は、マイケルに言った。
「報告してくれて、ありがとう」
「家族だから」
その言葉を聞いて、胸の奥が少し緩む。
マイケルは、明らかに安心した顔をした。
「ユリは、大切」
真っ直ぐな言い方だった。
そのやり取りを見ていて、
俺はふと、向かい側を見る。
百合と貴子が、目を合わせている。
空気が、少し変わった。
「……私も」
百合が言う。
その声は、さっきより少しだけ低い。
俺とマイケルが、同時に百合を見る。
「貴子と」
一拍置いてから、続けた。
「付き合ってる」
一瞬、頭が追いつかなかった。
でも、すぐに理解する。
――ああ、やっぱり。
俺は、ゆっくり息を吐いた。
「……百合」
名前を呼ぶ。
「そうか」
それ以上、言うことはなかった。
聞く必要も、詰める理由もない。
選んだ結果なら、それでいい。
マイケルが、目を丸くしてから笑った。
「オー!」
「じゃあ!」
一瞬考えてから、言う。
「ダブル?」
百合が、小さく笑う。
「そうなるね」
その横で、貴子の手が少しだけ強くなる。
「百合」
貴子が呼ぶ。
「貴子」
百合が呼び返す。
そのやり取りを見て、
胸の奥に、変な引っかかりはなかった。
心配より、納得の方が先に来る。
四人とも、
ちゃんと自分で選んで、
ちゃんとここに座っている。
それでいい。
マグカップから、湯気が立つ。
午後の光が、床に落ちる。
俺は、隣を見る。
マイケルが、俺の視線に気づいて、小さく笑った。
報告された。
でも、不思議と落ち着いている。
家族だから。
恋人だから。
同じ場所で、同じ言葉を聞いた。
それだけで、十分だった。




