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第16話 たぶん、止まらない



 マイケルの家に入った瞬間、

 空気が前と違うとわかった。


 静かだ。

 でも、落ち着かない。


「……来てくれて、ありがとう」


 日本語だった。


「ああ」


 それだけ答える。


 ソファに並んで座る。


 距離は近い。

 でも、触れない。


 前回の「今日はここまで」が、

 まだ残っている。


 マイケルが、

 俺の方を見る。


 視線が合う。


 逸らさない。


「……今日は」


 少しだけ、声が低い。


「たぶん、止まらない」


 宣言だった。


 予告でもある。


 俺は、

 心臓が一度大きく鳴るのを感じた。


 でも、

 逃げたいとは思わなかった。


「……ああ」


 短く答える。


 それで十分だった。


 マイケルが、

 ゆっくり近づく。


 肩が触れる。


 腕は回らない。


 まず、

 額が近づく。


 息がかかる距離。


 マイケルの呼吸が、

 少しだけ乱れている。


 俺も同じだ。


「……いい?」


 最後の確認。


「ああ」


 次の瞬間、

 唇が触れた。


 軽く、ではない。


 でも、

 強くもない。


 確かめるような接触。


 一度離れて、

 もう一度。


 今度は、

 少し長い。


 唇が重なる。


 擦れる感触。


 温度が、

 はっきり伝わる。


 キスだと、

 はっきりわかる。


 押し倒されない。

 抱き寄せられない。


 ただ、

 口付けだけが続く。


 時間が、

 曖昧になる。


 俺は、

 自分の顔が熱いのを自覚した。


 耳まで熱い。


 恥ずかしい。


 でも、

 離れたくない。


 マイケルが、

 少し角度を変える。


 唇が、

 より深く合う。


 ――Oh…


 小さく、

 英語が漏れる。


 俺は、

 思わず目を閉じた。


 それが、

 限界だった。


 やがて、

 マイケルがゆっくり離れる。


 名残惜しそうに、

 最後に一度だけ、

 軽く触れる。


 それで終わり。


 距離が戻る。


 俺は、

 すぐに視線を逸らした。


 顔が熱い。


 心臓が、

 落ち着かない。


「……」


 何も言えない。


 マイケルが、

 俺の様子を見る。


 そして、

 小さくつぶやいた。


「……cute」


 英語だった。


 感情が漏れた証拠。


「……言うな」


 照れ隠しで、

 そう返す。


 マイケルは、

 急に立ち上がった。


「トイレ!」


 勢いがある。


 逃げた。


 扉が閉まる音。


 一人になる。


 ソファに座ったまま、

 俺は天井を見る。


 唇が、

 まだ少し熱い。


 触れただけじゃない。


 確かに、

 キスだった。


 嫌じゃなかった。


 怖くもなかった。


 ――好きだ。


 その言葉が、

 はっきり胸に浮かぶ。


 混乱はない。


 言い訳もない。


 俺は、

 マイケルが好きだ。


 そう認めた瞬間、

 胸の奥が静かになる。


 しばらくして扉が開く。


 マイケルが戻ってくる。


 顔が、

 少しスッキリしている。


 呼吸も、

 整っている。


「……落ち着いた?」


「うん」


 即答。


 それから、

 少し照れたように笑う。


「Sorry」


「なにが」


「……止まらなかった」


 俺は、

 小さく息を吐く。


「……大丈夫」


 正直だった。


 マイケルの表情が、

 一気に柔らぐ。


「OK」


 それだけで、

 全部伝わる。


 今日は、

 これ以上進まない。


 でも、

 もう戻らない。


 キスは、

 始まりだった。


 俺は、

 はっきり自覚している。


 この人が、

 好きだ。


 それだけで、

 十分だった。


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