15 ラナレイvsアンサール①
私とラナレイは新人冒険者研修のためアンサールにギルドの地下へと案内された。(私は見学だけど)
「結構大きい部屋ですね」
部屋というか闘技場に近いか?
一階のギルドの広間より3倍は大きい。
地下にこんな空間を作っているとは驚きだ。
それにこの部屋結界が張ってあるな。
「ここは新人研修の場でもあると同時に冒険者達の決闘や訓練のための施設としての機能があるから空間全体に特別な魔道具で結界を張ってもらっているのよ。
もしよかったら最高の魔力の持ち主ちゃん....じゃなくて、エリナリーゼちゃんも暇な時にここで魔法の訓練をしてもいいわよ。
かなり高度な結界だから威力の高い魔法も試せるし、仮に結界が壊れてもすぐに張り直せるから安心してね」
ニッコリと笑って部屋の説明をしてくれるアンサール。
確かにこの強度ならばかなり高い威力の魔法攻撃でも簡単に破られることはないだろう。
「それじゃあ、ラナレイちゃんの戦闘スタイルの確認からね。見たところ前衛かしら?
女の子なのに珍しいわねぇ、大剣使いなんて。しかも随分高そうな剣ねぇ」
ラナレイの背にある大剣を見て感想をもらすアンサール。確かに女で大剣使いは珍しく、しかもラナレイの大剣は特に鞘がやたらと豪華なので目立つのだろう。
「うん、私は剣で敵を斬るのが得意なの」
「もしかして実戦経験もある感じ?それならこれはすぐにクリアできそうね」
パチンッ、と指を鳴らすと他の職員の人から一匹の魔兎が入った檻を受け取った。
(か、可愛い!)
「この子はラピちゃん。このギルドで調教した魔物よ。普段は人に攻撃しないから安心してね」
魔兎は頭に一本の角があり、全身が白いのが特徴だ。
だが、この魔兎は小さな角が二本ある珍しいタイプのようだ。
目元が特に可愛い。
一般的な魔兎は人を見るとすぐに怖い表情になるが、ラピちゃんは私達を見てもむしろ笑っている様な表情にも見える。
さて、前衛ならまずは体の動きの確認からさせてもらうわ。
今からラピちゃんをこの部屋に放つから捕まえてみてね。
この子は私が少〜し訓練してるから一般的な魔兎より体力もスピードもあるけど頑張ってね。
あ、もちろん攻撃はダメよ?あくまで捕まえるだけね?」
「うん、わかった」
「実戦により近い形の実力を見たいから武器は持った状態でお願いね。それじゃあ私の合図でスタートするわよ」
そう言ってアンサールは部屋にラピちゃんを放った。
魔兎は魔物としては弱く、動きが速いことだけが特徴だ。
ただラピちゃんは一般的な魔兎よりも速く部屋中を移動しており、普通の冒険者なりたての人間には捕まえるのが少し難しそうだ。
私でも身体強化なしでは捕まえるのは難しいかもしれない。
(たぶんこれは冒険者の動きだけじゃなくて体力も測ろうとしてるのかな?)
訓練して速さだけでなく体力も増していると言っていたので、もしかしたらラピちゃんを捕まえる身体の動かし方を見るだけでなく、体力の上限値も見るの役割としての意味もありそうだ。
捕まえられなかった新人はきっと効率的な身体の動かし方だけでなく、この内容の研修で基礎的な体力もつけることができるだろう。
冒険者にとって体力は重要な要素の一つだ。
私も冒険者なりたての頃にガイスとスランサの前衛の二人と一緒に毎日走らされた記憶がある。
マルスはサボっていたがきっと問題ないくらいには体力があったのだろう。
過去の思い出を懐かしんでいるとアンサールが始まりの合図を出した
「それじゃあ、スタート!」
合図を出した瞬間、ラナレイの姿が見えなくなった。
そして、次に彼女の姿を見た時はその両腕に魔兎がいた。
「もふもふしてる。可愛い」
魔兎をひたすら撫でながら可愛がっている。
いいなぁ...後で私も触らせてもらおう。
ではなくて!相変わらずとんでもない速さだ。
魔蛇の時もそうだが動きが全く見えなった。
ラナレイに抱えられているラピちゃんも驚いている。
驚いているラピちゃんも可愛い....
アンサールもまた驚いた表情でラナレイを見て、それから顔に笑みを浮かべた。
「驚いたわ。身体強化は使っていなかったはず....
まさかこのレベルの動きができるなんて....
今まで何人かはラピちゃんをすぐに捕まえる子もいたけどその中でも群を抜いて圧倒的に速いわね。
それに、たぶんそこらの冒険者よりも....凄いわラナレイちゃん!」
グッと親指を立てながらラナレイを褒めるアンサール。
ラナレイも同じポーズでアンサールに応える。
「これくらい余裕。それより、これで研修は終わり?」
「そうねぇ....今の動きでどれくらいの動けるかわかったけどまだまだ内容があるの」
「そう....」
ラピちゃんを撫で続けながら落ち込むラナレイ。しかし、すぐにアンサールからフォローがはいる。
「でも、今回は特別。ラナレイちゃんが最低限どの程度動けるかはわかったから次で最後よ」
「!わかった、最後も全力でやる!」
「フフッ、元気でよろしい!
それじゃあ最後は私と1対1で戦ってもらうわ」
「え!?戦うんですか!?」
「大丈夫よエリナリーゼちゃん。1対1といっても使うのは模擬戦用の剣だし、ちゃんと不殺用の魔法はかけてもらうから致命傷にはならないわ。
それに私もAランク冒険者。手加減は心得ているわ」
アンサールはラナレイを一瞬だけ目を細めて見つめた。
(それが必要な相手かはわからないけど……)
しかし、すぐに笑顔で私達に向けて安心するように伝えてくれる。
「それに、仮に怪我をしても私達ギルドが責任を持って治療するから安心していいわよ。勿論治療費は私持ちよ」
「ん、大丈夫ご主人様。私、頑張るから」
「ラナレイがいいならまぁ....」
ご主人様?とアンサールが怪訝な顔で私を見てきたが無視しておこう。これからきっとこのような視線を多く受け続けるに違いない。
今から慣れておかなくては...
しかし、アンサールが冒険者の中でもトップクラスの実力者であるAランクとは。かなり強い相手だがむしろちょうどいい機会かもしれない。
ラナレイの強さは私の見立てではBランク。
しかし、それはあくまで最低値だ。
前衛でない私の見立てが甘いだけかもしれないが、きっとラナレイの強さは私の予想も超えているはず。
同じパーティになる仲間として、しっかりと彼女の実力は把握しておきたい気持ちがあった。
「それじゃあ模擬戦用の剣よ。普段使っている物と重さや形が違うかもしれないけどごめんなさい」
ラナレイは私にラピちゃんを預けてアンサールから剣を受け取った。
「ん、大丈夫。お気遣いありがとうアンサール」
「フフ、エリナリーゼちゃんもラナレイちゃんも礼儀正しくていい子ね!あの子も見習ってほしいわぁ....」
ボソッと呟いたアンサールの言葉が気になった。
(あの子?誰か素行不良の冒険者でもいるだろうか)
だが、それより今は二人の戦いを見ることに集中しよう。ラナレイの動きは速く、Bランク冒険者でもあるアンサールの戦いはきっと凄いものになるかもしれないのだから。
あ、ラピちゃんは物凄くふわふわしていてずっと撫でていられる。それと近くで見るともっと可愛い。
私二人の戦いをしっかり見られるかなぁ?
「.....ご主人様?私の戦いしっかり見ててね?」
「う、うん」
言葉からどこか圧があるような気がしたので言われた通りしっかり見ておかなくては。
「それじゃあこっちも準備できたわ。始めましょうかラナレイちゃん?」
「ん、よろしく」
そうして二人の戦闘が始まった。




