12 影
アスラン王国の都市の一つ、リーランから少し離れた山道にて全身を黒色の服装で覆った男がいた。
「やれやれ、流石にこのレベルの黒竜を扱うだけならともかく『吸収』をするとなると制御にはしばらく苦労しそうですねぇ」
すると、巨大な黒竜が山の方へ飛んできた。
「来ましたか....では」
男は片手に持った小さな檻を上空へ向ける
檻から眩しい光が周囲を照らした瞬間、巨大な黒竜が檻の中へ吸い込まれていった。
「さて、記念すべき初の成果は...やはりたいしたものではありませんねぇ....都市の人間全員丸ごと頂くつもりでしたが....まぁ初めてとしては十分な結果としましょうか」
檻の中を覗き込んで男は不満そうな感想をもらす。
「次に使えるのはだいたい四ヶ月後くらいですかねぇ?一応下位の黒竜とついでに頂いた赤竜も使用したので取りこぼしはいくつかは回収できそうですが....」
「今回はざっと2000人程ですが、次はより多くの死のエネルギーの収穫に期待しましょうか」
クククッと男は邪悪な笑みを漏らす。より多く命を望むように....
「しかし制御に必要な魔力の代わりとなる魔石がまた必要になりますねぇ」
木々から溢れた月明かりが男を照らす。
よく見ると男の頭には普通の人間にはない巨大な角がついていた。
それは獣人の特徴的な角とは異なる細く、それでいて強力な魔力を放つ角だ。
「しかし、やはり封印の影響がまだ残っていますねぇ。私自身の力の魔力の回復がほとんど上手く行えない。あの忌々しい女神のせいでッ!」
ざわっ、と周囲に不気味な力が伝播する。
山に棲息していた魔物は男の殺気を感じて一斉に逃げ出した。
不気味な魔力に怯えて、見境のない魔物ですら恐怖からその場を一斉に離れる。
するとまた別のフードを被った者が現れる。
「何を遊んでいる。こんなに殺気を周囲に振り撒いて...ハルファスではそのせいで冒険者とか言う連中に森を探られたのを忘れたのか?」
現れたフードの人物が苦言を吐く。
「ですが結果的にバレなかったので問題なかったではないですか。
あなたは少し警戒しすぎです。仮にあの時にバレたとしても処理すれば問題ないでしょう?
今の時代の人間は軟弱そうな者が多いようですし」
「回収した今ならともかく、あの時点の我らは全盛期のように満足に戦えはしなかった。
たしかに、今代の人間共は脆弱だが、それでも強者がいないとは限らない。
それに我らを知るエルフ共にでも正体が掴まれてみろ、必ず奴らはあの陰気くさい里から出てきて我らを殺しにくる。今の段階で奴らと戦うのは危険だ」
「それもそうですねぇ。
我々魔人の完全復活のためにも邪魔をされるわけにはいきません。仕方ありませんが、しばらくはこの竜に頑張って集めてもらいましょう。
これほどの竜ならば大都市をあと二つも飲み込めばかなりの数の魔力を集められるでしょうしね」
「そのためにはまずその竜を御せるようにしておけ。かなり強力な黒竜だ。今は檻と鎖でなんとかなっているが生半可な力ではそのうち離れていくぞ」
「わかっていますよ。
私は魔石を集めてきます。今回収穫した分があればそこそこ力を使えるようになります。
エルフ共に見つからないように正体は極力隠しながら精々働いてきますよ」
「ならこちらは引き続き他の封印を解いてくる。
今のところ封印地は数箇所確認できが、それでもあのお方達の封印場所はいまだに見つからない。
なので暫くはより多くの同胞の封印を解くことに専念する。
数が揃えばエルフ共にバレても派手に動けるようになるからな」
自分達の正体を魔人と呼んだ者達は、こうして密かに次の厄災を振りまく準備に取り掛かかっていく。
それはやがて王国のみならず帝国、ひいては世界を危機に陥れるための計画が動きだしていた。




