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異世界剣聖記  作者: 深村美奈緒


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〈第33話〉『【属性付加】』〈前編〉

 闘技場―――ティファvsレオス

 

 (やべっ、これは避けられねぇ!)

 自身の【決闘クリスタル】めがけて容赦ない突きをティファが放ってくる。

 鋭い音が闘技場に響き渡り、ティファの剣先がレオスの左手の防具の表面を掠めて空を斬る。

 捉えたはずの確信――しかし左腕で軌道を逸らされ、決定打となり得る【決闘クリスタル】の破壊には至らない。

 決めきれなかったティファはレオスの反撃を警戒し、即座に後方へ跳躍、素早く間合いを取り直した。


 「ふぅ、危ねぇ危ねぇ……間一髪だったぞ」

 レオスは冷や汗を拭いながら、胸元で無傷の光を放つ【決闘クリスタル】に視線を落とした。

 あの一撃の威力をほんの数ミリ殺しきれていなければ、そのまま結晶を砕かれて決着がついていただろう。


 「……るい」

 「あ?なんだって?」

 ティファの呟きを聞き取れなかったレオスが、耳に手を添えて聞き直す。

 

 「今のズルくないですか!?腕の防御なんて!」

 その抗議の言葉を聞いて、レオスはキョトンとする。

 

 「ズルい……、ねぇ。確かに【決闘】において今のは俺もどうかと思った。でもよ、言い訳するわけじゃないが、戦場において肉を切らせて己の命を守ることもある」

 と、レオスが実際の戦場を例えに出してきた。


 「そ、そうかもしれんけど!」

 ティファは言い淀みながらも、地団太を踏んで食い下がろうとする。


 「ま、これは【決闘】規定の揚げ足取りになるかもしれんが、”身体の一部で攻撃を受けてはならない”なんてルールはないんだぜ?」

 「うっ……」

 ティファはレオスの言葉に完全に論破され、悪びれもなくニヤリと笑うレオスに、ティファはぐぬぬと口を噤むしかなかった。


 「ただ、今の攻撃はナイスだ!だから……。こっからは右(・)腕(・)一(・)本(・)で続けさせてもらう」

 レオスが大剣を右腕一本で構え直す。

 その姿に、ティファは眉をひそめて睨みつけた。


 「確かに腕での防御がズルいと言いました。でも!そんなハンデが欲しいって言ったわけじゃない!」

 レオスは望まぬ提案を受けた、ティファの眼光を真っ向から受ける。


 「ハンデ?お前俺より頭お花畑か?これはハンデじゃねぇ。お前は俺(・)の(・)左(・)腕(・)を(・)切(・)り(・)落(・)と(・)し(・)た(・)ん(・)だ(・)その剣技への称賛だ。左腕を使ったのは俺の未熟さ、とっさの悪あがき。だが、ここからは純粋に剣技だけで受けて立つ」

 不満を完全に封じ込められ、同時に己の技量を正当に評価されたティファ。

 不服さは消え去り、嫌でも全力を出さざるを得ない覚悟が強制的に引き出されていた。


 「……わかりました。うちの剣は先輩の腕一本、切り落とした。ですけど、腕一本になったからちゅうて、うちは手加減しませんよ!」

 ティファは間合いを取った距離で剣を構え直し、切っ先をレオスに向けた。


 「手加減?お前俺の”二つ名”知ってんのか?”剛腕”の二つ名は伊達じゃねぇんだよ!例え片腕を削がれても俺の剣の冴えは変わらねぇ!!」

 ビリビリとレオスの威圧感が空気を伝って届き、2人の間に見えない火花が飛び交った。



 闘技場―――エルザvsクラウス


 隣でティファとレオスが間合いを取り合い、お互いをけん制し合う中、エルザとクラウスは魔法の応酬を続けていた。

 

 「……っ!!」

 (一度だけでもお兄様の意表をつけたとはいえ、【魔法防盾(マジック・シールド)】を使わせただけで決定打にはなっていない!このまま撃ち合ってもいずれ押し切られる!……どうしたら!)

 正面からの純粋な打ち合いでは、魔力量・精度ともにクラウスに分があるのは明白だ。

 怒涛の魔法の応酬の中、エルザは焦る気持ちと打開策を模索し続ける。


 (【再創造】(リクリエイト)で【炎矢】(ファイア・アロー)に変換しても手数は増えるが威力が軽減してしまう……)

 求められるのは、威力を落とさずに貫通力や威圧感を底上げすること。

 単一の属性や単純な変形だけでは、クラウスの絶対的な防御態勢を突破できない。

 尚且つ、クラウスは光、闇属性以外の5大属性を網羅し、瞬時に想像することができる。

 そんなクラウスが敢えて炎属性だけで、エルザの魔法に応えている。

 エルザはそこに何故か違和感を感じていた。

 本気で完封するのであれば炎属性に反発関係、優位関係にある水属性の魔法を放ってくればいいわけだ。


 (でも……、私は水属性の想像がまだできない!)

 クラウスを打ち破るため、エルザは深く思考を巡らせすぎ、クラウスの放った炎の奔流が、防ぎきれなかったエルザの隙を突いて迫ってくる。

 

 (しまっ——!)

 エルザは迫りくる【炎球】(ファイア・ボール)に対し、【魔法防盾】を展開しクラウスの攻撃を防ぐ。

 【炎球】が激しく【魔法防盾】に激突し、爆煙と猛烈な熱風がエルザの視界を覆う。


 「この魔法の攻防……。もう飽いたな……」

 クラウスからの口から聞こえてくる冷徹な言葉に、エルザは【魔法防盾】を解除せず視線を向ける。

 クラウスは両手杖(スタッフ)をひと回しし、言葉を紡ぐ。


 「【再創造】【炎球】【形状変換】(シェイプ・チェンジ)【属性《アトリビュート・》変換】(コンバージョン)【雷槍】(ライトニング・スピア)!」

 クラウスの想像で【炎球】が急速に圧縮・変形し、紫電を纏う3本の【雷槍】へと姿を変える。


 「っ!!」

 (アロー系上位の形状変化に、5大属性で最も貫通力の高い雷属性……! 本気で私を打ち抜く気ですか!)

 魔法の三大竦みにおいて、アロー系は防御に徹する相手に、貫通力を誇るが脆弱性も併せ持つ。

 だが、クラウスのように、上位魔法に昇華し、その貫通力と属性相性を組み合わせることによって防御不能な魔法へと変貌する。


 (どうする……。どうしたら!)

 クラウスの放った【雷槍】は確実にエルザの【魔法防盾】を穿ち抜いてくることが想像される。

 【炎の砲弾】で相殺を狙うか、このまま【魔法防盾】の強度を限界まで上げて耐え凌ぐか——判断を迷うエルザの耳に、疾風のような叫びが届いた。

 

 「何を亀みたいに縮こまっちょる!前に出ろエル!」

 隣で強敵レオスを相手取りながらも、ティファが鋭い檄を飛ばしてくる。

 視界の端で、片腕一本で大剣を構えるレオスに対し、一切の気負いもなく前へ踏み込んでいくティファの姿がエルザの目に映った。

 防御に回るのではなく、危険を承知で前へと踏み出すその圧倒的な覚悟。

 それを見たエルザはティファと【決闘】した時のことを思い出す。


 (そう、あの時、私に追い詰められたあの娘はどうした?迷いも、恐れも捨て去って前に出た!なら……私だって!!)

 エルザは迷いを振り払い、【魔法防盾】を自ら解除して迫りくる【雷槍】を見据えた。

 

 「【風魔法】『【風迅加速】』(エリアル・クイック)!」

 直進してくる【雷槍】の軌道に対し、エルザは回避魔法戦技【風迅加速】を発動。

 前方に凄まじい速度で急加速し、紙一重で【雷槍】の刺突を躱し切った。


 「お兄様……。私は貴方を追いかけ、真似ることが正解だと思っていました」

 【雷槍】を回避し加速の勢いのまま着地し、強い意志を込めた瞳をクラウスへまっすぐ向ける。


 「でもそれは違いました!お兄様が”不動の魔法砲台”の二つ名を持つのなら、私は私の魔法戦技で、”移動する魔法砲台”として名を馳せます!!」

 エルザはそう宣言しながら、杖を取り回し次なる攻撃の光球を周囲に発生させる。

 そんなエルザの姿を見て、冷徹だったクラウスの表情がわずかに崩れ、妹エルザが見せた思いがけない覚悟と独自の戦闘スタイルの答え、そしてその成長に対し、クラウスは口元に一瞬だけ薄い笑みを浮かべた。



 闘技場―――クラウス・レオス側サポーター席


 「いつまでもクラウスに委縮してるかと思ったら。エルザも言うじゃない」

 サポーター用に設けられた特等席で、腕を組みながらアシュリーが目の前で繰り広げられる兄妹対決を口元を緩めて見つめていた。

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