9. 捕物
「全員動くな!教会警ら部の立ち入り捜査だ!」
修道兵のリーダーの通告に、中にいた者達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。修道兵が入って行った扉とは違う扉を目指した少年は、その扉から入って来た修道兵を見て、手にした物を飲み込んだ。
そして、修道兵に対してファイアーボールを連発した。修道兵は皮の盾をかざして防いだ。とは言え、当たらないファイアーボールもあり、倉庫内部に置かれた荷物に延焼しだした。
修道兵の中には水魔法師もいたから順次消していったが、別の少年が風魔法を、さらに別の少年が水魔法でも攻撃してくるから、修道兵は密売組織側に近づく事が出来なかった。だから組織側は裏から逃げ出そうとしていた。
水路に船を降ろし、人が乗り込もうとしているのがゼファー王子達、つまり私達からは見えた。
「どうやらマリーノ司教達は、犯人達を上手く拘束出来ていない様だ。何とかしてやってくれ」
ゼファー王子は私を見てそう言った。
うん、犯罪組織の拘束に、公人である司教や王子でなく、平民の私が何かするのか。しかもここで15ftのウォーターボールを維持していると言うのに。
「きゅきゅ」
レレまで私に行動を促す。ええ、やりますとも。
40ft離れた船をウエーブの魔法でひっくり返し、陸側に落とす。犯人達の一部がこちらに走って来ようとする。
「リプス」
ゼファー王子の命令で、男性従者が魔法を放つ。遠当ての様だ。走って来ようとした3人は次々と向こう側に跳ね返されて倒れた。
「行くぞ」
ゼファー王子が私を見て言う。マリーノ司教達があてにならない以上、私達が拘束しないといけないのか…とんでもない事に巻き込まれてしまった。
私達は小走りで犯罪組織の人物達に近づいた。一人、自爆係らしき男が何か飲み込み、火魔法を打って来た。リプスという名のゼファー王子の男性従者が風魔法で吹き飛ばした。そして、それ以外の男達もリプスの遠当てで次々と転がされた。
拘束が不可避と思った男達は、鞄の中身を水路にばら撒いた。流してしまえば、溶けてしまうのだろう。飲み薬なんだから。
ゼファー王子が叫ぶ。
「マーガレット!」
だからさ、15ftのウォーターボールにイルカを浮かべて保持している魔法学院1年が、この上何か魔法を使える訳ないでしょ?出来るけど。
水中を底に向かって沈んで行っている物体を氷で固める。それを持ち上げて水の上に出す。ついでだから犯人達の頭に氷をぶつける。犯人達はかなりの勢いで地面に倒れこんだ。
ゼファー王子が私を横目で見る。何か非難の色が浮かんでいる。やり過ぎ?だったらちゃんと指示してよ!修道兵達がようやく水路側に出て来て、犯人達を縛り上げる。
「きゅ~」
レレが何か言いたげだ。首を前後に動かす…多分、魔力増強剤に近づきたいんだろう。
レレを入れたウォーターボールを、魔力増強剤を含んだ氷に近づける。するとレレが鼻っ面を氷に近づけ…そこで出てきたマリーノ司教が叫ぶ。
「ガブリエーレ様!お待ちください!」
『さま』、と付けるんだ。そう思った私を横目に見ながらゼファー王子が呟く。
「教会関係者が『ガブリエル』と名付けているんだぞ?」
そう、ガブリエーレは天使ガブリエルのイオニア風の呼び方だ。
「一部だけでも証拠として残したいんです」
そう言ってマリーノ司教は私を見る。はいはい。この人達は私が水魔法なら何でも出来ると思っているのか…まあ、今回に限っては出来ない事は要求されていないけど。だから、氷の底側の薬剤らしきものが溜まっている部分の一部を分離する。
「このくらいでどうですか」
「充分です。ご協力ありがとうございます」
何を今更。私はまだレレをウォーターボールで運んでいる最中なんだ。
すると、レレが再び鼻っ面を氷に近づけた。目より前の頭部がほんのり光り、その光が氷を包んだ。しばらくして光が収まると、氷の中の薬物は消えていた。一度溶けていた細かい部分も消えた様だ。
レレが頭を小さく前後に動かす。
「うん。凄い凄い」
「きゅ」
レレは褒めて欲しかった様だ。天使様の名を付けられたイルカは、子供の様な感性の持ち主の様だ。
異世界の物語です。異世界でも神、悪魔という言葉が通用するように、天使ガブリエルもよく聞く天使の名前、程度に思ってください。異世界だからもしかするとナイアルラトホテップと同じ意味かもしれません。




