10. 夏休みの終わりの日
寮の共用部分、食堂と購買の壁に注意を促す貼り紙が張られた。
「一部の生徒が犯罪組織から不法な危険薬物の購入をして逮捕されました。不法な危険薬物の服用は犯罪です。当学院の生徒は不法薬物の服用を禁止されています。知人や見知らぬ人から勧められた正体不明の薬物は口に入れない様にしましょう」
「注射する薬物もあるんだがな。そちらは良いのか?突っ込むところだ」
「注射は見るからに危険ですから、注意は不要なんじゃないでしょうか?」
騒動が終わってもゼファー王子と私は運河の堤防の横で話す事が多い。毎夕方には、イルカのレレが遊びに来るからだ。
「きゅ~」
レレが催促する。だから私は魔法で強化したウォーターボールを山なりにレレの頭付近に放る。レレはそれを頭を当てて上に打ち上げる。それが水面近くに落ちたところで、私がまた魔法で上に放り上げる。それをレレが身体を動かしてまた打ち上げる。
「贅沢な遊びだな」
ゼファー王子が言う。それはそうだ。平民の大半は魔力が希薄だ。貴族なら過半数が初級の魔法なら使える。王家と上位貴族になるとほぼ全員が魔法を使える。つまり、水魔法で遊ぶと言うのは、爵位持ちの家系以上でないと出来ない事なんだ。
「ところで、入学式の前日、港で花火が上がるそうだが、見に行かないか?」
「その、女性とか王子様が夜に歩いても大丈夫なのですか?」
「私には強い護衛がいるからな。君だって何なら不審者なんか皆殺しに出来るだろ?」
「一遍に皆殺しは無理だと思いますが…」
「10人以上なら加勢しよう」
「一人でも加勢してください。か弱い女子じゃないですか」
「ははっ」
何故かゼファー王子の笑い声は乾いていた。
そして、入学の前日、つまり8月末日の夕方に、ゼファー王子と二人の従者と私は運河の横の小道を歩いていた。大分港に近づいたところで、レレが運河を南下して来た。堤防から身を乗り出して手を振ってあげる。
「こんばんは~」
「きゅきゅ」
少し鳴いた後、レレはゼファー王子に顔を向けて黙った。
「何だ、姫君を連れて来てやったんだ。礼ぐらい言って欲しいものだな」
礼代わりに飛んで来たのは水飛沫だった。レレは一旦水中に頭を入れた後、頭を勢いよく跳ね上げたのだ。仕方なく、私がウォーターウォールで防ぐ。
そんな事をしながら港に着くと、待っていたのはアレッサンドロ・マリーノ司教達だった。
「皆様が我が国の花火を楽しんでいただく事を願っておりますよ」
暗くなった空に、遠くからど~んと音がする。しばらく静かだったレレは、花火の花が開くのと同時に水面からジャンプした。私はぱちぱちと拍手をしながら称える。
「凄い凄い。良いタイミングじゃない!」
「きゅ」
次の花火でも、音がすると深くに潜ったレレが、花火が開くのと同時にジャンプした。水飛沫が花火の光を乱反射する。
「うん、きれい、きれい!」
「きゅ」
私達が花火をそれぞれのやり方で楽しんでいる頃、ゼファー王子とマリーノ司教は話をしていた。
「こんな夜までガブリエル様のお世話とは、教会も大変だな」
「いえ、魔力の強い生物なので、保護が必要なのですよ」
「ふん、惚けられてもな。あの魔力増強剤を消した魔法、あれは聖魔法だ。神の奇跡の代行者を聖獣と崇めないで良いのか?」
「聖者・聖女など、簡単には認定出来ないものですよ」
ゼファー王子は鼻で笑った。
「例えば、マーガレットは私が分かる。凡百の人と王家の人間の魔力の違いが分かるんだ。そのマーガレットが遠くから認識するイルカ…つまり、王家に近い魔力があるんだ。不世出の魔力と言って良い。それを聖獣扱いしないでどうする?」
「見ての通り、ガブリエーレ様ご自身は普通の生活をお望みです。何でも崇め奉れば良いと言うものでもありません」
「普通かね?王族並みの魔力を持つ女を欲しがる事が?」
「彼女がそれ程と?」
「言ったろう?王族並みの魔力が分かる女だ。その魔力が並みの筈も無い。私だって人混みの中から彼女を見つけ出す事が出来る。それほど魔力が突出しているんだ」
「殿下こそ彼女をお望みで?」
「裏が取れていない。トラキアならどこかの国から姫が逃げ込んでも隠れられるからな。その裏を確認するまで動けない」
マリーノ司教は溜息を吐いた。
「家系が分からないと好きになれない、それは恋とは言えないのでは?」
「必ずしも恋の相手と結婚する必要は無いだろう?私は結婚相手探しでここに来ているんだ」
「魔法トーナメントはどうでも良い訳ですか?」
「彼女次第だろう。例えば、この夜、王子が一人、やはり海に来ているのを感じる。だが、あいつは私の敵にはならない。だから、三年になったら彼女以外に私を阻める者はいないだろう」
「素晴らしい自信ですね」
「事実だ。二年の二人の王子が卒業した後なら、とは思うが」
「ヒスパニアの王子様は危険だとは申しておきますよ」
「死人でも出したか?」
「とりあえずは生きてはいますが」
「覚えておこう」
イルカのレレと花火を楽しむ私には、ゼファー王子の従者のケライノーさんが付いていてくれた。
そうしている間に、外していたゼファー王子がやって来た。
「楽しんでるか?」
「ええ。レレが飛び跳ねてくれて」
「ああ、運河は底が浅いから、ジャンプする為に加速する距離が足りないのだろう。だから海に来た今、ジャンプを見せてくれているんだ」
するとレレが顔を水面に鎮め、尾鰭で水飛沫を上げた。仕方がないので私がウォーターウォールで壁を作って防ぐ。そうすると、レレは私との水遊びに夢中になる。
ゼファー王子は思った。
(天使ガブリエル。男の嫉妬は見苦しいぞ。話をしたぐらいで嫉妬をするな。まあ、惹かれるのは仕方ない。お前にも彼女の周囲の粉雪が見えているのだろうからな)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
夏休みの思い出が作れそうになかったので、「それならそれっぽい小説を書いてみよう」と思ったのですが、世界観がないお話を書いても読んだ人の心に残らない。だから次回作の設定とキャラを使ったのですが…主人公を外伝で男とくっつけられないですよね?本編で書くことがなくなってしまう。
という訳で、ただの次回作のイントロになりました。次回作は10月初旬開始かな…設定とあらすじねりねりしているところです。10月頃に作者の名前を見つけたら、一度読んで頂ければ幸いです。




