7. お誘い
結局この日はこれでお開きになった。
「今日は案内出来ずに済まなかったな。明日また出かけよう」
「あの、ゼファー様のご予定は大丈夫なのですか?」
「ああ。入学式までは何も無い」
微妙に従者二人の顔が険しくなった。良いのだろうか…
「それでは、ご予定の無い日にお誘いください」
「だから、明日は予定がないんだ。それに、二日続けて事件はないだろう。マリーノ司教から警ら部に連絡が行き、取り調べも厳しくなるだろうからな」
「でしたら、また明日の午後にでもお願いします」
「ああ、楽しみにしている」
見知らぬ街の平民街を見るのが楽しいのだろうか…王子様の感覚は分からない。
一方、ゼファーから従者に指示が出た。
「マリーノ司教の背後は分かったか?」
「教会組織にそれとなく聞いている段階なので、まだ時間がかかります」
「何故イルカのガブリエーレに騒動が分かったのか、そこが重要なのだろうな」
「殿下、そこに深入りする必用がありますか?」
「多分、一番重要だぞ?まだ分からんか?」
「申し訳ありませんが、殿下の護衛にとって重要な要素がありません」
「よく考える事だな。魔法増強薬が出回るとこの魔法学院の存在意義が無くなる。その捜査に関与するイルカと司教、重要な筈だ」
「そこに下手に手出しをすると逆に疑われますが?」
フッ、とゼファー王子は笑った。
「向こうから近寄ってくるさ。気を抜くなよ」
話が終わりそうなので、女性従者のケライノーが追加報告をした。
「トラキアのマーガレットについては大使館の下部組織経由でトラキア外交官に接触しております。もう少しお時間をいただきたくお願いします」
「学年戦が始まるまでに分かれば良い」
学年戦、とは学院内ナンバーワンを決める学内魔法トーナメントの予備戦にあたる、学年毎のトーナメントの事だった。学年戦が上期後半に行われ、その上位進出者が下期に3学年混じって本戦トーナメントに参加する事になる。
翌日、昼食を食べていると、また運河にイルカのレレの魔力、波の音の様な魔力がやって来た。少し忙しなく動いている。急かしているみたいだ。仕方なく、食事を少し残して急いで寮を出た。
ところが、通路を急ぐ途中でまた春風が吹いて来た。その風の出元を見ると、やはりゼファー王子が姿を現した。
「急用が出来た様だな?」
「え…と、すみません。レレの魔力を感じて」
「良い。あれとも友人のつもりなのだろう?なら付き合ってやる事も必用だ」
「ええと、申し訳ありませんでした」
「構わん。急ぐぞ」
「え、ゼファー様もいらっしゃるので?」
「奴とはともかく、君とは友人だろう?つきあうさ」
良いの?またもめごとかもしれないのに…まあ王子様を掣肘出来ない。
私達が堤防の上から運河を見下ろすと、レレが水の上に頭を二度・三度と出している。急かしているんだ。
「どっちーっ?」
大声で行くべき方向を聞くと、南へ向きを変えてすすっと進んでしまう。
「速い、速い!」
背中を出しながら泳ぐレレの耳は外に出ているのだろうか?気にせず進んで行ってしまう。焦る私にゼファー王子が尋ねる。
「ウェーブの魔法に乗るとか出来ないのか?」
ウェーブじゃない魔法で乗る事は出来るけど、それ伝家の秘密魔法なんだ!
「無理言わないでください!」
「そうか、じゃ、ストップ」
何故かゼファー王子が私を止める。
「じゃ、失礼」
ゼファー王子は私を抱き抱えて、空中浮遊の上、堤防の上を飛行し出した。
「えええ、ちょっと、殿下!?」
「友人だろう。殿下は止してくれ」
「ゼファー様、さすがに王子様にこれをしていただくのは!」
「気にするな。非常事態だろ」
斜め横を泳ぐレレが水面から何度も身体を浮かせて進む。
「ははは、怒ってるな」
ゼファー王子が珍しく微笑みながら言うが、無理してついて行っているのに怒られたらたまらない。
「何で怒るんですか?ついて行ってるのに」
ゼファー王子は前を見たまま言った。
「男心が分からないのか?」
はい?イルカのオスでしょう?
「想像も出来ません」
「想像しておいた方が良いぞ。ここにも一人男がいるし」
だから、そういう思わせぶりは止めて!平民と王子じゃどうにもならないでしょ…
抱きかかえてくれる、ってのは淑女扱いしてくれている、或いは仲間と思っているという証拠なんですがね…




