4. 教会
イルカは少し離れたところに浮かび、水面から浮かんだ顔付近の身体を揺らした。
「きゅきゅきゅ」
楽しそうで何よりだ…
「我が国に住みついた海洋生物と仲良くしていただいて、我々も喜びを抑えきれませんよ」
やって来たローブを着た一団の先頭の男が言葉をかけて来た。
すると、イルカはすすっと距離を取り、離れたところから目の周辺だけ水から出してこちらを見ている。
「ええっと、イルカさんとお知り合いの方ですか?」
「はい。港によく顔を出すので、傷付ける者がいないか監視しているのです」
それにしてはあの子、距離を取ったけど?
「もし、今後ともあれと仲良くしていただける様なら、是非お名前を伺いたいのですが?私は教会の司教アレッサンドロ・マリーノです」
「私はトラキアからの留学生のマーガレットです」
「私の自己紹介も必要かな?」
「いえ、ゼファー殿下のお噂はかねがね伺っております」
ゼファー王子は顔をイルカに向かって振ってから言った。
「それで、あいつにも名前があるのだろう?マーガレット嬢に教えてあげてくれ」
マリーノ司教は一瞬言葉に詰まったが、すぐに口を開いた。
「ガブリエーレと呼んでおります」
「よりにもよってその名か…」
ゼファー王子は目を細めてマリーノ司教を見つめた。
私は少し距離を取っているイルカに話しかけた。
「ガブリエーレ?」
イルカは反応しなかった。
「エーレ…レレ?」
イルカはすっと前進して身体半分を水面から浮き上がらせた。
「きゅーっ」
「レレが良いのね?」
「きゅっきゅっ」
「レレが良いらしいぞ?」
「ガブリエーレがそれで良ければ、我々から何か言う事はありません」
ゼファー王子が続けて口を開こうとした寸前、マリーノ司教はガブリエーレに向かって言った。
「ガブリエーレ、港で朝食が出ますよ、行きましょう」
イルカのガブリエーレは顔面付近を水面上に出しながら何か逡巡していた。 だから言ってあげた。
「また会いましょう、レレ」
私はそう言って手を大きく振った。
ガブリエーレは身体を左右に振って鳴いた。
「きゅっ」
そうして、向きを海側に変えて、水面に背びれを出しながら泳いで行ってしまった。
「では、失礼します」
マリーノ司教とその連れ達も海方向に歩いて行った。
「この短時間でイルカと友達になるとは、中々の手際だな。動物には慣れているのか?」
「いいえ。動物を飼った事はないですよ」
「では、そういう経験でもあるのか?」
「いえ、孤児院から領主様の魔法学校預かりになったりしましたが、動物とは本当に縁が無いんです」
「…差支えが無い範囲で良いから、その辺りの話をそのうち聞かせて欲しいな」
私は少し苦い顔をして言った。
「護衛の方々がそういう話を聞きたい様なら、お話ししますよ。お時間をいただければ」
『第一王子』の新しい友人ともなれば、背景は調べられるんだろう。別にこっちから近づいた訳じゃないのに…
「気に障ったなら謝る。だが、何かあれば力になりたい。だから知りたいんだ」
「ありがとうございます。今度時間がある時に」
「ああ、一度お茶にでも誘わせてもらう」
「ありがとうございます」
マーガレットが去った後、ゼファー王子に従者のリプスが進言した。
「殿下、まだ背景が洗えていません。少しお待ちいただけませんか?」
ゼファー王子は溜息を吐いた。
「お前にはまだ分からんのか?」
リプスもそう言われては困ってしまう。
「我々は従者でありますが護衛でもあります。背景の分からない危険に足を踏み込まれる様なら、お止めするのも仕事です」
「ハイリスクは認めるが、明らかにハイリターンが見込めるのだぞ?」
「どう言う事でしょうか?」
「到着早々、この都市で教会が釣れる女性だ。小物の訳があるまい?」
リプスは怪訝な顔をするだけだった。ケライノーは険しい顔をしてゼファー王子を見つめた。
ララとリリとルルとロロは聞いた名前だけど、レレはないでしょ?




