⑫
結局、今後の対策どころではなく、この日の夜は解散となった。
縁側で一人、ぼうっと空を眺めているのは翠琉だ。
どうしても、眠ることが出来なくて……
あの騒ぎの後、思わず尋ねてしまったのだ。
『……気味が、悪くはないのですか……?』
誰も、何も気にしていないかのように進む話に、思わず割って入ってしまった。
きっと、“バケモノ”“呪いの御子”“人ならざる恐ろしい異端者”……そんな奇異なモノを見るような視線を向けられる覚悟を決めていたというのに。
『見えるのは精霊だけ?幽霊とかオバケも見えるのかッ!!それは、怖いなッ』
とんちんかんな同情をしてみせたのは、バナナの次に幽霊が苦手だと公言している由貴だった。
『動物とも話せるのか。それは、動物園の職員が羨ましがるな』
『水族館とか、獣医師さんも羨ましいだろうねえ……』
そんな、明後日の方向の返事を返したのは蘭子と将だ。
『職業柄、幽霊やら悪霊やら……闇堕ちしたのは視えるさかい……そういった、闇堕ちしとらんの視て、癒されたいわあ……』
『キレイなもん見て癒されるようなたまか?』
と、ちょっとした漫才を繰り広げたのは京御三家コンビの砂霧と蕎だ。
『それぞれの個性じゃろうて……』
『それより、今までお友だちのこと、無視せなあかんかったのは、辛かったねえ』
とは、正宗と桜の反応である。
一番、以外というか……切実だったのは、鋭と由樹だ。
『翠琉ちゃん!!是非、捜査協力をッ……結構、積んでる事件が多いんだよ……証言が多ければ多いほど、犯人逮捕の糸口になるからね……』
『とっ捕まえて、逃げたことを後悔させてやる……』
腹黒い微笑みに、見るからに凶悪な笑顔を見せられて、皆がヒッとなったのは内緒だ。翠琉だけは、反応が違った。
『私の、この力が……お役に立てるのですか……』
その言葉を聞いた瞬間、抱き締めたのは紗貴だ。
『翠琉ちゃん、いい子過ぎッ!!!』
「……お前達と話して……気味が悪いと、初めて言われなかった……」
その翠琉の言葉に同調するように、小鳥が頭の上に乗っかった。肩にはどこから現れたのか、リスがちょこんと鎮座している。
犬に猫、蝶々をはじめとする虫たちが、自然と集まっていた。
『翠琉、我慢しなくていい……人にはそれぞれ“常識”があって、それがみんな違うのが当たり前なんだ。翠琉の“常識”を隠さなくていいんだ……そうやって、お互いの“日常”を擦り合わせていこう?』
そう言って、優しく頭を撫でてくれたのは、緋岐だった。
むず痒くて、
鼻の奥がツンとして、
切なくて……
何より、心の中が温かい。
その慣れない感情を持て余したまま、縁側に腰かけてそっと空を仰ぎ見た。
「まさか、こんな時間が来るなんて……」
かつて、自分の手の中にあった安らぎの時間は、だけど、自分自身のせいで壊れてしまった。
ふと、懐を探れば、そこには父の形見でもある竜笛があって。
そっと手に取ると口を付けて息を吹き込む。
澄んだ音が、風と共に空へと舞い上がる。
『すげえ、上手だな!!!』
太陽を思わせる、曇り一つない笑顔が好きだった。
『翠琉は、無茶ばっかりしちゃうけれど……女の子なんだよ?自分を大事にして……』
怪我をして行くと、まるで自分が傷付いたように心配してくれる……その優しさが救いだった。
——大切な時間だったのに……
最後の音を吹き終わった瞬間……
パチパチと、拍手が贈られた。
その方向に目をやって、翠琉は息を呑んだ。
そこに居たのは、かつて失った
……消えてしまった
……かけがえのない……
「ユエッ!!!」
もつれるように中庭へと走り出ると、真っすぐに白い少女に向かう。
そのままの勢いで抱き締めた。
「ユエ……逢いたかった……」
「ボクも逢いたかったよ、翠琉……でもね……時間がないんだ」
言いながら、少女……ユエは、そっと翠琉の身体を押し戻すと真っすぐな視線を向ける。
「邪神達をどうにかしたい……でも、その手立てが見付からない……そうだよね?」
「どうして、それを……」
だけど、ユエは翠琉の問いには答えず、一方的に話を進める。
「翠琉、全ては月だよ……彼らは、天上界に戻る為、その時を虎視眈々と狙ってる……きっと、今探したって見付かりっこない」
—— だから……
「チャンスが来るまで、待つんだよ。準備を整えておくんだ……」
「ユエ……一体、どういう……」
ひたりと、陶磁器のような白さと冷たさを帯びた手が翠琉の頬に添えられる。その顔には慈しむような微笑みが浮かんでいて。
「翠琉、待ってるから……」
雲が、月を隠すと同時にその場から少女も掻き消えた。
「……梵天を、今度こそ必ず、討つ……」
一つ、道筋が示された瞬間だった。
END




