トリシャさんのこと
お待たせしました、更新です!!!
「それは、どういうことですか?」
ヴィクテージが店員さんに質問する。僕の出身である魔法界の子がいるなど、僕は聞いていない。
それに、魔法界と言えば初めてエズに来た時に遭遇したあいつだけだ。
シュリーの祖母の知り合い、というのは確かに分かった。しかし何故この人が僕の他に魔法界出身の子がいるのを知っているのか……と、ヴィクテージは聞きたいのだろう。
「この前エズに来た魔法使いも魔法界の出身だったねぇ。それと……あぁ、アルネって子もおるし、トリシャ=ガーマイアもおるよ」
「えっ、ちょっちょっと待ってください、トリシャさんも来ているんですか!?」
一体どんな時代だここは!
僕は心の中でツッコミを入れながら、驚愕の声をあげる。
そもそも、だ。魔法界に、魔法界から異世界転生や転移などは、魔法界ではよくある話だ。混属性であるレイラさんを見ていたから分かるし、今そんな状態に僕がなっているのも事実だ。しかしここは戦後すぐのフランスだ。僕の仲間や知り合いがいるなど、僕は何も知らない。
それに一九八二年なら、メイルの母であるトリシャさんも、シュリーの祖母であるシルヴェールさんも、魔法界の歴史では魔法大戦争に巻き込まれている真っ最中のはずだ。
なんだか歴史に歪みが起きているような、そんな気がする。僕の時代でも、今のフランスでも。
「そんな驚くことは無いよ。今はどこにいるか分からんけれども、シルヴェールからそんなことを聞いたもんでねぇ。少しだけ気になっているんだよぉ」
「いや、僕も気になりますそれ……」
「わ、私も」
『もしゃもしゃ……その、トリシャさんやシルヴェールさんは、いつ頃見かけたのでしょう?』
口周りに肉の破片を付けたコルが、生肉を持ちながら質問する。
店員さんは付近を取り出して、コルの口周りを優しく拭きながら言った。
「大体三日くらい前だねぇ。まだエズにおるんじゃないかね?」
三日前……って事は、僕も既に転移してきている頃だ。ということは考えられるのは二つ。普通に遊びに来ているのか、。それとも、
「歴史の歪みに加えて、僕みたいに連れ去られ系異世界転移をした先輩方がいる……?」
「普通に異世界転移でいいんじゃないの?」
歴史の歪みが起きたにしても、僕のように魔法界からそのまま連れ出されたのなら二つとも納得が行く。今頃シュリー達が「あれ? がろー今日も休み?」って噂してそうだな、っていう説と、魔法界の時間帯は僕が転移した日そのままで、フランスの時間軸だけが進んでいる説。うーん両方あってどっちが正解なのかわからない。
「……あ、また一人で考え出した」
『こうなると誰にも手が付けられませんね』
「ええさええさ、考える子は伸びるからねぇ」
ニコニコと笑顔で僕を見つめる店員さんは、「あぁそうそう」と、身につけていたエプロンから何かを取り出して僕に渡してくる。
僕の思考はそこで遮られ、渡される手に気づいてそれを受け取る。
一つの紙切れだった。四つ折りになっており、開いてみると、フランス語で店の名前がいくつか書かれていた。
「……これは?」
「シルヴェール達を見かけたって子が教えてくれた店の名前だよ。何回も行っているらしいから、そこに行けばもしかしたら会えるかも知れんねぇ」
「貴重な情報! あんたそれ貸しなさい私が閉まっておくわ、絶対あんた失くすから!」
「やだねぇ! 僕の黒装束にはちゃんと内ポケットなるものがついているのだから!」
手を伸ばしたヴィクテージから逃れ、僕は黒装束の内ポケットに紙切れを入れる。ヴィクテージも言った通り、とても貴重な情報だ。感謝極まりない。
「ありがとうございます!」
「いいのよぉ、観光にせよトラブルにせよ、はよ魔法界に帰れるといいねぇ」
「はい!」
***
「それにしてもあんた、魔法界ってほんとにあったのね」
不意にヴィクテージがそういうもので、ペットのフリをしてヴィクテージに抱かれていた僕は首を傾げる。
「正直本当にあるのか疑ってたのよ。日本人が知り合いに魔法界出身の人がいるって、あんたの世界ってほんとに広いのね」
「いやいや、そこまで広くはないさ。もっとも、僕が住んでいるのは魔法使いが多くいる所だし、他に魔法の使えない一般人が結構いる所でもあるのさ。繋がっていても不思議ではないよ」
「じゃあ、あんたが普段通ってる魔法学校ってどういう目的で作られたのよ?」
『それは私も気になりました。がろー、ぜひ教えてください』
二人にそうせがまれるもので、どう順序を追って説明したらいいのか迷いながらも、僕は魔法学校について軽く説明をした。
「えーっと。まず僕のいる魔法界ってのは、昔から戦争とか紛争が絶えない世界なんだ。ようするに治安が悪いんだよ。
だからその戦争や紛争から一般人を守る為に魔法使いを育成する所、それが魔法学校なんだ。年齢層は大体六、七歳から二十歳、でも大半は十歳から魔法学校に入学することが多いんだ」
「それは……どうして?」
「家の事情だったり、そんな危ないところに入学させるにはまだ早い、とか、両親の反対が大きいみたいだよ」
「話だけ聞いていると軍人のように思えてくるわね……」
「言い換えれば僕達は戦争の為に使われる存在だからね。軍人……っていう解釈は結構合っていると思う」
そう言われると、軍人という言葉はしっくりくるのかもしれない。とはいえ、軍人よりかは遥かに規則はゆるいけども。
「その魔法使いって、誰でもなれるの?」
「基本は誰でも出来るし、なれるよ。でもヴィクテージみたいに一般人の場合は、誰かに魔力を貰わなきゃ魔法は発動できないけどね」
魔法はただ自分に溜め込んだ目に見えない魔力を具現化して、攻撃や神通力のような力に変えて発動するだけだから、僕の世界では魔法の存在を信じていれば誰でも発動出来る。
逆にヴィクテージのような一般人となると、僕に魔力を貰わなければ魔法は発動できない。本当は魔法学校で魔力の受け渡しという上級魔法過程にある科目の単位を取らなきゃ出来ないんだけども。
「私もやってみたい」
「は?」
「私も魔法使ってみたい」
「え?」
え?
本気で言ってるんだろうかこの子は。
そうだとしたら凄いなぁ。尊敬する。
……じゃなくて。この下りこの前もやったような気がする。
「あのねぇヴィクテージ、魔法は見かけによらず危険なんだよ? 軽い気持ちで使ったら、下手すれば人を殺しかねないんだから」
「安全に使うもん」
「わがままだなぁ」
「いいじゃない、あんたの姿見て憧れたのよ。悪い?」
「それ言われると恥ずかしいからやめて」
いや、正直言って僕それを言われたら彼女の顔を見ていられない。恥ずかしいんだ、僕が憧れるような存在っていうのが。
「……じゃあ約束して。絶対に危険な使い方しないって」
「いい子にしてます」
「じゃあ、軍基地戻ったら少しだけ魔力をあげるよ」
パッとヴィクテージの顔が明るくなったのが一瞬で分かった。余程嬉しいんだろうな。
……まぁ、彼女の喜ぶ姿が見られるのならそれもありか、と僕は思う。
彼女に魔力を持たせたらどうなるかって言うのは……また次のお話。




