第5話「共同出資という盾」
第5話「共同出資という盾」
三日という猶予は、あっという間に過ぎていく。
宗一郎は、この三日間をただ手をこまねいて過ごすつもりはなかった。まず向かったのは、ロゼリアのもとだった。
「商業ギルドと揉めてるんだって? 街じゃもう噂になってるよ」
「耳が早いな」
「あんたが工房に金を出した頃から、変な噂ばっかり流れてくるからね」
ロゼリアは肩をすくめたが、その目は面白がっているようにも見えた。
「それで、あたしに何の用?」
「力を貸してほしい。ただし、剣の力じゃない」
宗一郎は、自分の考えを話し始めた。
モルガンの狙いは、ガレン一人を締め上げることだ。だが、もしガレンの工房が「街の複数の人間から支持されている事業」だと示すことができれば、話は変わってくる。一商人の私怨で潰せるようなものではなくなるからだ。
「あんたには、街の冒険者やギルドの人間との繋がりがある。俺一人が『いい話だから』と言って回るより、あんたの口から広めてもらう方が、話が早い」
「つまり、あたしに営業して回れってこと?」
「そういうことになるな」
ロゼリアは、しばらく考える素振りを見せた後、にやりと笑った。
「面白そうじゃない。それに、あたしらが今こうして依頼を選べる立場になれたのは、あんたのおかげだからね。恩は返す」
***
宗一郎が次に考えたのは、資金の出し手を増やすことだった。
これまで、ガレンへの出資は宗一郎一人の銀貨三枚だけだった。だが、もし複数の人間が少しずつ金を出し合い、「魔動鋤」の今後の売上から分配を受ける仕組みを作れたらどうか。
(一人の金じゃ限界がある。だが、小さな金を集めれば、大きな盾になる)
宗一郎は、これまで工房から農具を買った農家たちを一軒ずつ訪ねて回った。話す内容はシンプルだった。
「あんたらは『魔動鋤』のおかげで助かってるはずだ。もしよければ、銅貨数枚でいい、ガレンの工房に出資してみないか。工房が儲かれば、あんたらにも配当が入る」
「出資……? 俺たち百姓が、そんなことしていいのか」
「今までこの街になかっただけだ。理屈は簡単だよ。工房が儲かれば儲かるほど、出した金が増えて返ってくる。損をする覚悟がいるが、その分、得をする可能性もある」
最初は誰もが戸惑った。だが、既に「魔動鋤」の恩恵を受けていた農家たちは、宗一郎の言葉に思いのほか早く乗ってきた。銅貨数枚、多くても銀貨一枚程度。一人あたりの額は小さかったが、二十軒、三十軒と集まれば、それなりの規模になった。
三日目の夜には、ガレンの工房を支える「出資者」は、宗一郎一人から、街の農家三十二人にまで増えていた。
***
商業ギルドへの出頭日。宗一郎とガレンは、書類の束を抱えてギルドの窓口に立った。
「これは?」
役人が怪訝な顔をする。
「工房への出資者一覧です。三十二人。全員、この街の住人ですよ」
書類には、出資者の名前と金額、そしてそれぞれの署名が並んでいた。役人はそれを一枚一枚めくりながら、明らかに動揺の色を見せ始めた。
「越境取引が問題だと仰いましたが」
宗一郎は続けた。
「工房が仕入れ先を変えたのは、品質と価格が理由です。それだけで営業を止めれば、この工房を頼りにしている三十二人が損をする。さらに、この工房から農具を買っている農家たちにも影響が出るでしょう。つまり、今回の処分はガレン一人の問題では済まなくなる。それでもなお、規則を理由に押し通しますか」
役人の背後で、この様子を遠巻きに見ていたモルガンの顔が、みるみる青ざめていくのが見えた。
三十二人という数字は、単なる資金以上の意味を持っていた。それは、「この工房が潰れたら困る人間が、これだけいる」という、可視化された民意だった。一商人の私怨だけで押し通せる話ではなくなっていた。
「……規則の解釈について、今一度、上と協議いたします」
役人は、それだけ言うのが精一杯だった。
***
工房を出たところで、ガレンが深く息を吐いた。
「まさか、こんな形で切り抜けるとはな」
「規則で殴られたら、数の力で殴り返す。それだけの話だ」
「それより――出資者が三十二人、か。あれは、あんたが最初に俺にやったことと、同じなんだな」
ガレンの言葉に、宗一郎は少し考えて頷いた。
「ああ。ただ、規模が違う。一人から一人への出資じゃなく、多くの人間から一つの事業への出資だ」
(――これだ)
宗一郎の中で、何かが像を結び始めていた。個人が個人に金を出す段階から、多くの人間の小さな金を、一つの事業に流し込む仕組みへ。前世で言うところの、株式や証券という概念の、最も原始的な形。
この街には、まだ名前すらない仕組みだった。
視界の端に、また例の印象がちらついた。
――《信用構造:改善の兆し》
――《将来性:?》→《将来性:高》
街そのものに対する表示が、初めて明確な答えを出していた。
「……面白くなってきたな」
宗一郎は、小さく呟いた。モルガンとの一件は、思わぬ形で、次の一手のヒントを与えてくれていた。
ガレンの工房だけではない。この街には、まだ同じように「多くの人の小さな金」を必要としている事業や才能が、いくつも埋もれているはずだった。
もしそれを、街全体を巻き込む形で仕組み化できたら――。
宗一郎の頭の中では、既に次の構想が動き始めていた。
※本作品はAI(人工知能)を活用して執筆・作成された作品です。




