第4話「既得権益の逆襲」
第4話「既得権益の逆襲」
セーントルの街で、宗一郎の名は少しずつ知られ始めていた。
「魔動鋤」の噂を聞きつけた農家が工房に列を作り、「灰狼」が格上の依頼を次々とこなすようになったことで、冒険者ギルドでも話題に上るようになっていた。「あの若い流れ者が絡むと、なぜか物事がうまく回る」――そんな噂が、酒場の隅で囁かれ始めている。
だが、噂というものは、良い方にだけ広がるとは限らない。
***
「――お前が、ガレンの工房に金を出したという男か」
その日、宗一郎が工房を訪ねると、見知らぬ恰幅の良い男が、苛立たしげにガレンに詰め寄っているところだった。ガレンの顔には、明らかな苦渋の色があった。
「あんたは?」
宗一郎が声をかけると、男はぎろりとこちらを睨んだ。
「セーントルの魔石商会を任されている、モルガンだ。あんたのせいで、うちの売上がガタ落ちだよ」
――《資産:多》
――《信用:低》
――《……》
視界の端の印象は、これまでで一番はっきりとした「悪意」を伴っていた。
モルガンは、この街で長年、魔石の仕入れを独占してきた商会の主だった。ガレンが隣街から直接仕入れるようになったことで、モルガンの商会は上客を一つ失った形になる。それだけならまだしも、噂を聞きつけた他の職人たちまでもが「隣街の方が安くていい魔石が買えるらしい」と言い出し、モルガンの商売そのものが揺らぎ始めていたのだ。
「別に、あんたの商売を潰そうとしたわけじゃない。ガレンにとって一番いい選択をしただけだ」
「屁理屈を言うな。この街で商売をするなら、この街のやり方に従うのが筋ってもんだろう」
モルガンの言う「この街のやり方」――それが、独占によって品質の低い魔石を高値で売りつける仕組みのことだと、宗一郎にはよくわかっていた。
「筋を通したいなら、品質と値段で勝負すればいい話だ。それができないから、こうやって因縁をつけに来てるんじゃないのか」
モルガンの顔が、みるみる赤くなった。
「――生意気な流れ者が。いいだろう、そっちがその気なら」
男はそう吐き捨てると、荒々しく工房を出て行った。
ガレンが、心配そうに宗一郎を見る。
「大丈夫なのか。モルガンは、この街の商業ギルドにも顔が利く男だ」
「……厄介なことになるかもな」
宗一郎は、正直にそう答えた。前世でも、こういう手合いはいくらでもいた。正面から勝負できないとわかると、ルールそのものを使って潰しにかかってくる。
***
数日後、その予感は的中した。
セーントルの商業ギルドから、ガレンの工房に呼び出しがかかったのだ。理由は「無許可での越境取引」――隣街からの仕入れが、ギルドの定める商慣習に反しているという、聞いたこともない言いがかりだった。
「そんな規則、聞いたこともないぞ」
ガレンは憤慨したが、ギルドの窓口で対応した役人は、慣れた様子で書類を突きつけてきた。
「規則は規則です。違反が認められれば、工房の営業許可を一時停止することもあり得ます」
書類には、確かにそれらしい条文が並んでいた。だが宗一郎には、これがモルガンの差し金だとすぐにわかった。金と顔の広さを使って、都合よく解釈できる規則を持ち出させたのだろう。
(――力業で来たか)
工房の営業が止まれば、これまで積み上げてきたものが全て水の泡になる。ガレンの生活も、「灰狼」への次の展開も、全てが止まる。
だが宗一郎は、ここで頭を下げるつもりも、退くつもりもなかった。
「わかりました。三日、猶予をください。こちらでも事情を確認します」
役人にそう告げ、工房を後にする。
「宗一郎、どうする気だ」
ガレンが不安げに尋ねる。
「規則で殴られたなら、規則で殴り返す。ただし――」
宗一郎は、少し考えてから続けた。
「モルガン一人を相手にしても仕方がない。この街の仕組みそのものが、ああいう人間に都合よくできている。それを変えない限り、また同じことが起きる」
「そんなこと、俺たちだけでできるのか」
「一人じゃ無理だな」
宗一郎の脳裏に、ロゼリアの顔が浮かんだ。それから、これまで街を歩き回る中で見かけた、埋もれた技術を持つ職人たちの顔も。
「だが、味方は思ったより多いかもしれない」
***
その夜、宗一郎は宿の帳面に、これまでの出来事を整理して書き出していた。
モルガンのような既得権益者は、この街に一人ではないはずだった。独占によって甘い汁を吸っている商人、それに便宜を図ってきた役人。今回は魔石の話だったが、同じ構図は、この街のあらゆる場所に潜んでいるだろう。
(一つの工房を守るだけじゃ、根本的な解決にならない)
宗一郎の頭に、ある考えが浮かびかけていた。ガレンやロゼリアのような、埋もれた才能への出資を一件ずつ続けるだけでなく――もっと多くの人間を、同じ仕組みの中に巻き込むことができれば。
一人の金で一人を支える段階から、多くの人間の小さな金を集めて、大きな流れに変える段階へ。
まだ漠然とした構想に過ぎない。だが、モルガンとの一件は、その最初のきっかけになるかもしれなかった。
視界の端に、また例の印象がちらついた。今度は、モルガンでもガレンでもない――この街そのものを見たときに浮かんだような、奇妙な感覚だった。
――《資産:――》
――《信用構造:歪》
――《将来性:?》
街一つを丸ごと値踏みするような表示は、これが初めてだった。
「……この力、思ったより底が知れないな」
窓の外はすでに夜が更けていたが、宗一郎の頭の中は、むしろ冴えていくばかりだった。
※本作品はAI(人工知能)を活用して執筆・作成された作品です。




