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第3話「才能への出資

第3話「才能への出資」


 少女に声をかける前に、宗一郎はまず一日、彼女を観察することにした。


 名前は、ギルドの受付で聞いた。ロゼリア。Cランク冒険者パーティー「灰狼(はいろう)」のリーダーで、歳は宗一郎よりいくつか下に見えた。パーティーは彼女を入れて三人。斥候崩れの青年と、寡黙な大男の戦士。装備は継ぎ接ぎで、お世辞にも稼げているようには見えなかった。


 だが、依頼をこなす様子を遠目に見ていると、他のパーティーとは明らかに違う点があった。


 ロゼリアは、依頼を選ぶ基準が違う。報酬額だけを見て飛びつくのではなく、討伐対象の素材がどこの商会でいくらで買い取られるか、街の需要がどう動いているかまで調べた上で依頼を受けていた。ある日など、報酬額そのものは他の依頼より低いのに、「素材の相場が来月上がる」という理由だけで、あえてその依頼を選んでいるのを、宗一郎は酒場で小耳に挟んだ。


(――こいつ、無意識にやってるのか、それとも自覚があるのか)


 視界の端に、また例の印象がちらついた。


 ――《技術:中》

 ――《資金:不足》

 ――《将来価値:?》


 技術そのものは、まだ突出しているわけではない。装備も貧弱なCランクだ。だが「将来価値」の項目に浮かぶ「?」――これまで見てきた誰にも出なかった表示だった。


(読めない、ということ自体が答えなのかもしれないな)


 前世でも、そういう投資先はあった。今の実績だけを見れば凡庸。だが、思考の癖に「伸びる匂い」がする人間。数字に出ない部分にこそ価値がある――それは、能力に頼らずとも、宗一郎自身が長年かけて培ってきた勘だった。


***


「話がある。時間をもらえるか」


 宗一郎が声をかけると、ロゼリアは警戒するように目を細めた。


「あんた、ここ数日、あたしたちのこと見てたでしょ」


「気づいてたか」


「そりゃ気づくよ。柄の悪い借金取りかと思って、ずっと身構えてた」


「そうじゃない。逆だ。金を貸すんじゃなく、出す話をしに来た」


 ロゼリアは片眉を上げた。


「出す? 寄付ってこと? うちは施しを受けるほど落ちぶれちゃいないけど」


「寄付でも施しでもない。取引だ」


 宗一郎は単刀直入に切り出した。


「あんたらの装備、お世辞にもいいとは言えない。だが今日の依頼の選び方を見てた。他の依頼より安いのに、あえて素材の値上がりが見込める方を選んでただろう」


 ロゼリアの表情が、わずかに強張った。


「……見てたんだ」


「気づいてる奴が他にいるとは思えない。それができるってことは、あんたには『先を読む頭』がある。ただ、それを活かすための装備と金がない。それだけの話だ」


 宗一郎は、ガレンとの契約と同じ型を持ちかけた。


「俺が装備一式を出す。今のボロい装備じゃ、稼げる依頼にも手が届かないだろう。その代わり――今後、あんたらがダンジョンや討伐で得た戦利品や報酬から、一定の割合を長期的に俺に渡してほしい」


「一定の割合って、どれくらい」


「二割。ただし、俺が出した装備の初期費用を回収するまでは、そこから優先して充ててもらう。回収し終えたあとの二割は、俺の取り分だ」


 ロゼリアはしばらく黙り込んでいた。それから、探るような目で宗一郎を見た。


「……なんであたしたちに賭けるの。もっと強いパーティーなんて、他にいくらでもいるでしょ」


「強さなら、な。だが俺が見てるのは今の強さじゃない」


 宗一郎は、迷わず答えた。


「あんたの『先を読む頭』に賭けてる。装備も報酬も後からついてくる。だが、その頭は誰にも真似できない」


 ロゼリアは、しばらく宗一郎の顔をじっと見つめていた。やがて、小さく息を吐く。


「……もし装備だけもらって、あたしたちが依頼をこなさずにドロンしたら?」


「そのときは、俺の見る目がなかったってだけの話だ」


 その答えに、ロゼリアは意外そうな顔をした。それから、初めて小さく笑った。


「変な人だね、あんた」


「よく言われる」


***


 装備一式を整えたその日から、「灰狼」の依頼のこなし方は目に見えて変わった。


 安全マージンを取れる装備を得たことで、これまで避けていた少し格上の依頼にも手を出せるようになった。ロゼリアの「先を読む頭」は、装備という後ろ盾を得たことで、初めて本来の力を発揮し始めていた。


 一月後、宗一郎の元に、ロゼリアが自ら報酬の一部を届けに来た。


「約束通り、二割」


「……早いな。もう装備の元は取れたのか?」


「まだ半分くらい。でも、まとめて払うより、こまめに払っておいた方がいいと思って。あんたも、その方が計算しやすいでしょ」


 宗一郎は、少しだけ意外に思った。契約の本質――信用の積み重ねが将来の関係を作る、ということを、ロゼリアは誰に教わったわけでもなく、感覚で理解しているようだった。


 視界の端に、また例の印象がちらついた。


 ――《技術:中》

 ――《資金:改善》

 ――《将来価値:高》


「?」だった項目に、初めてはっきりとした答えが出ていた。


(――間違ってなかったな)


 宗一郎は、内心でひとつ頷いた。


***


 その夜、宗一郎は宿の一室で、これまでの経緯を紙に書き出していた。ガレンへの出資、ロゼリアへの出資。まだ二件に過ぎないが、確かな手応えがあった。


(技術のある人間に金を出す。才能のある人間に金を出す。それだけで、埋もれていたものが動き出す)


 この街にはまだ、同じように埋もれた才能や技術が転がっているはずだった。だが、この規模のまま続けていても、いずれ頭打ちになる。宗一郎が持つ資金にも、目にも、限界がある。


(一人でできることには限りがある。もっと大きな仕組みが要る)


 視界の端の「印象」――【価値眼】とでも呼ぶべきこの力の正体も、まだ何一つ解き明かせていない。基準は何なのか、何を見れば発動するのか、どこまで信じていいのか。


 だが、少なくとも一つだけ、確信を持って言えることがあった。


「――この世界、まだ誰も本気で『金の使い方』を知らない」


 窓の外には、セーントルの街の明かりが、いくつも灯っていた。宗一郎の目には、その一つ一つが、まだ誰にも気づかれていない「資産」のように映っていた。

※本作品はAI(人工知能)を活用して執筆・作成された作品です。

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