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第二十七話 「居場所がなくなる日」

夏の終わり。


蝉の声が、少しずつ減っていた。


その日の朝。


ぼたんが店へ行くと、

店主のおばちゃんが暗い顔で座っていた。


机の上には、何枚もの紙。


「……おばちゃん?」


すると、おばちゃんは無理に笑った。


「ごめんねぇ、ぼたんちゃん」


その声だけで、ぼたんは何かを察した。


「店、閉めることになった」


世界が静かになった気がした。


「え……?」


「最近ずっと厳しくてねぇ」


「材料も高いし、お客さんも減っちゃって」


おばちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。


「本当にごめん」


ぼたんは慌てて首を振った。


「謝らないでください!」


でも。


胸の奥が冷たかった。


まただ。


また、“帰る場所”がなくなる。


その日のお弁当作りは、

いつもより静かだった。


揚げ物の音。


包丁の音。


全部が、終わりへ向かう音に聞こえる。


閉店後。


おばちゃんは最後のお給料を渡した。


少ない封筒。


でも、温かい手だった。


「ぼたんちゃんは、本当によく働いてくれた」


「ありがとうね」


ぼたんは深く頭を下げる。


「こちらこそ……」


声が震えた。


帰り道。


夕焼けが滲んで見える。


平屋へ帰ると、

ぼたんは玄関に座り込んだ。


「……仕事、なくなっちゃった」


誰に言うでもない声。


静かな家。


返事はない。


ぼたんは俯いた。


「ぼたん、ちゃんと生きていけるのかな……」


涙がぽろぽろ落ちる。


頑張っていた。


ちゃんと働いて。


ちゃんと生きようとしていた。


でも。


人生は、急に全部を奪っていく。


その時だった。


ふと、祭壇の横に置いてあるお守りが目に入る。


ハルが最後に残したもの。


――“人生が、本当に辛くなった時に開けなさい”


ぼたんは震える手で、お守りを取った。


今かもしれない。


本当に、辛い時。


ぼたんはゆっくり紐をほどく。


中には、小さく折りたたまれた紙が入っていた。


涙で滲む目で、開く。


そこには。


ハルの字で、こう書いてあった。


――“ぼたんへ”


――“一人で泣いてるなら、人を頼りなさい”


――“助けてもらっていい”


――“それでも立ち上がれなくなったら、空を見なさい”


――“わたしは、ずっとぼたんの味方だよ”


ぼたんの涙が止まらなくなる。


紙を胸に抱きしめる。


「……ばあちゃん」


声が震える。


でも。


不思議と、少しだけ温かかった。


外では夜風が吹いていた。


まるで。


遠くから、優しく背中を撫でるみたいに。

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