第二十八話 「最後の贈り物」
涙で濡れた手紙を抱きしめながら、
ぼたんは何度も読み返していた。
――“わたしは、ずっとぼたんの味方だよ”
ハルの声が聞こえる気がした。
ぼたんはお守りを胸に当てる。
すると。
中に、まだ何か入っている感触があった。
「……あれ?」
小さく首を傾げる。
さっきの手紙の奥。
さらに小さく折りたたまれた紙が、もう一枚入っていた。
ぼたんはゆっくり開く。
そこには、短くこう書かれていた。
――“春野ぼたんへ”
――“困った時のために残してあります”
――“○○銀行 あいことば『ぼたんの花』”
――“通帳はタンスの奥”
ぼたんは目を瞬かせた。
急いでタンスを開ける。
服の奥。
古い箱。
その中に、確かに通帳が入っていた。
ぼたんは震える手で開く。
そして。
固まった。
「……え」
数字が理解できない。
何度見ても同じだった。
残高。
三億円。
ぼたんは座り込んだ。
「……なんで」
頭が追いつかない。
ハルはいつも質素だった。
古い服。
小さな平屋。
節約したご飯。
扇風機も古かった。
贅沢なんて、一度もしなかった。
なのに。
どうして。
通帳の間には、さらに一枚メモが挟まっていた。
ハルの字だった。
――“若い頃に土地を売ったお金だよ”
――“本当は、自分の老後に使うつもりだった”
――“でもねぇ”
――“ぼたんが来てから、考えが変わった”
――“この子が、生きていける未来を残したいと思った”
ぼたんの涙が、通帳に落ちる。
ハルは。
最後まで。
ぼたんの未来を考えていた。
自分のためじゃなく。
ぼたんのために。
ぼたんは声をあげて泣いた。
「ばあちゃん……!」
「なんで何も言わなかったの……!」
静かな平屋に、泣き声が響く。
でも。
その涙は、前とは少し違った。
寂しさだけじゃない。
愛されていたことが、苦しくなるほど伝わってくる涙だった。
夜。
ぼたんは縁側に座って空を見た。
星が綺麗だった。
「……ばあちゃん」
「ぼたん、ちゃんと生きるね」
「このお金、無駄にしない」
「誰かに優しくできる人になる」
風が吹く。
庭の牡丹が揺れる。
その瞬間。
どこかで、優しく笑う声が聞こえた気がした。
――“うん。それでいいんだよぉ”




