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第二十四話 「あと少しのお金」

夏が近づいていた。


扇風機が、古い音を立てながら回っている。


ぼたんは学校から帰ると、

制服のまま台所へ向かった。


冷蔵庫を開ける。


卵、一個。


豆腐、半分。


味噌はあと少し。


「……どうしよう」


小さく呟く。


ぼたんは居間へ行き、

タンスの引き出しを開けた。


そこには、ハルが残してくれた生活費が入っている。


封筒に入ったお金。


“ぼたんへ”


そう書かれていた。


ぼたんは何度も助けられてきた。


電気代。


給食費。


ノート代。


全部、このお金で払っていた。


だけど。


封筒の中は、もうほとんど残っていなかった。


千円札が数枚。


小銭。


それだけ。


ぼたんは、しばらく動けなかった。


「……あと少しだ」


怖かった。


本当に、一人になってしまう気がした。


夜。


ぼたんは節約のため、電気を早めに消した。


薄暗い部屋。


窓から入る月明かりだけ。


お腹は少し空いていたけど、

味噌汁を多めに飲んで我慢した。


「大丈夫」


自分に言い聞かせる。


「ぼたん、一人でもできる」


でも。


その声は少し震えていた。


その時。


ふと、タンスの奥に古いノートを見つけた。


ハルの字だった。


――“安い野菜で作れるご飯”


――“風邪を引いた時のおかゆ”


――“つらい日は、甘い卵焼き”


ぼたんはページをめくる。


ところどころ、シミがある。


きっと昔の涙か、お茶か。


最後のページには、こう書いてあった。


――“お金がなくても、ちゃんと食べること”


――“生きるのを諦めないこと”


ぼたんの目から涙が落ちた。


「……ばあちゃん」


ノートを抱きしめる。


すると。


ぽとっ。


ノートの間から、小さな紙が落ちた。


そこには、ハルの字で書いてあった。


――“困った時は、一人で抱え込まない”


ぼたんは、その文字を見つめた。


長い間。


静かな部屋。


扇風機の音だけが回る。


やがてぼたんは、涙を拭った。


そして、小さく頷く。


「……うん」


次の日。


ぼたんは勇気を出して、学校の先生に話しかけた。


「先生」


「少し、相談したいことがあります」


その声はまだ小さかった。


でも。


確かに前を向いている声だった。

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