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第二十三話 「一人のごはん」

ハルがいなくなってから、一か月。


平屋は静かだった。


時計の音。


やかんの沸く音。


風で揺れる障子。


前からあった音なのに、

今はやけに大きく聞こえる。


ぼたんは、一人で暮らし始めていた。


朝は自分で起きる。


制服を着る。


洗濯を干す。


ご飯を作る。


全部、ハルが教えてくれたことだった。


その日の夕飯は、味噌汁と卵焼き。


それだけ。


質素な食卓。


「……いただきます」


言ってから気づく。


返事がない。


いつもなら、


「はい、召し上がれ」


って笑ってくれていたのに。


ぼたんは俯いたまま、味噌汁を飲む。


少ししょっぱかった。


涙が入ったからかもしれない。


夜。


宿題を終えて、洗濯物を畳む。


ハルの癖が、自分に移っていることに気づく。


タオルの畳み方。


お茶の入れ方。


味噌汁の味。


生活のあちこちに、ハルがいた。


「……ばあちゃん」


小さく呟く。


返事はない。


でも。


不思議と、完全に一人ではない気がした。


次の日。


学校帰り。


商店街のおばちゃんが声をかける。


「ぼたんちゃん、これ持ってきな」


コロッケだった。


「育ち盛りなんだから、ちゃんと食べなきゃ」


八百屋のおじさんは、みかんを袋に入れてくれる。


「ハルさんに世話になったからな」


ぼたんは何度も頭を下げた。


「……ありがとうございます」


帰り道。


夕焼けの中を歩く。


昔、ハルと手を繋いだ道。


ぼたんは少し空を見上げた。


「ばあちゃん」


「ぼたん、ちゃんと生きてるよ」


風が吹く。


庭の牡丹が揺れた。


その夜。


ぼたんは一人で布団に入った。


寂しかった。


すごく寂しかった。


でも。


ちゃんとお風呂に入った。


ちゃんとご飯を食べた。


ちゃんと歯も磨いた。


ハルとの約束だから。


ぼたんは枕を抱きしめながら、目を閉じる。


「……おやすみ、ばあちゃん」


静かな平屋。


だけど。


どこか優しい夜だった。

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