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第二十話 「お守りの中」

一時退院してから数日。


ハルは前より静かになっていた。


縁側で空を見る時間が増え、

時々、遠くを見るような目をする。


ぼたんは気づいていた。


ばあちゃんが、

少しずつ“準備”をしていることに。


その夜。


二人は並んで布団に入っていた。


窓の外では、虫の声が聞こえる。


静かな夜だった。


「ぼたん」


ハルが小さな声で呼ぶ。


「なに?」


「前に渡したお守り、持ってるかい?」


ぼたんは枕元から大事そうに取り出した。


卒業祝いにもらった、古いお守り。


少し色褪せているけれど、

ぼたんにとって宝物だった。


「持ってるよ」


ハルは安心したように頷く。


「……それねぇ」


「人生が、本当に辛くなった時に開けなさい」


ぼたんは首を傾げる。


「いまじゃだめなの?」


「だめ」


ハルは少し笑った。


「苦しくて」


「寂しくて」


「前が見えなくなった時」


「その時に見るんだよ」


ぼたんはお守りを見つめる。


「なにが入ってるの?」


「秘密」


「えぇ〜」


「ふふ」


久しぶりに、昔みたいな笑い声が響く。


でも。


そのあとハルは、少し真面目な顔になった。


「ぼたん」


「人はねぇ」


「生きてると、どうしても辛い日が来る」


「頑張っても上手くいかない日もある」


「一人ぼっちみたいに感じる日もある」


ぼたんは黙って聞いていた。


ハルはゆっくり続ける。


「でもねぇ」


「そんな時でも」


「自分で、自分を見捨てちゃいけない」


その言葉は、

静かだけど強かった。


「ぼたんには、ちゃんと幸せになってほしい」


「いっぱい笑って」


「好きな人を作って」


「美味しいもの食べて」


「綺麗な景色を見て」


「“生きててよかった”って思ってほしい」


ぼたんの目から涙がこぼれる。


「……ばあちゃんは?」


ハルは優しく笑った。


「わたしはねぇ」


「ぼたんに会えたから、幸せだったよ」


その声は、とても穏やかだった。


ぼたんは泣きながら、

お守りを胸に抱きしめる。


「ぼたんも……」


「ばあちゃんがいて、幸せ……」


ハルはそっと、ぼたんの頭を撫でた。


その手は細くて、温かかった。


まるで。


その温もりを、

忘れないように残していくみたいに。

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