第十四話 「ゴールの先」
秋。
空が高く、風が気持ちいい季節。
今日は、ぼたんの運動会だった。
朝早くから、ぼたんはそわそわしていた。
「ばあちゃん!おべんとうまだ!?」
「はいはい、慌てないのぉ」
ハルは少し息を切らしながらも、
卵焼きを焼いている。
手は前より震える。
でも。
ぼたんの運動会だけは、どうしても見たかった。
「今日ね、ぼたんリレー選手なんだよ!」
「おお〜!すごいじゃないか」
「絶対一位とる!」
その目は、昔よりずっと頼もしかった。
学校へ着くと、
グラウンドにはたくさんの家族がいた。
子ども達の声。
笛の音。
焼きそばの匂い。
にぎやかな景色の中で、
ハルは折りたたみ椅子に静かに座る。
「無理しないでくださいねぇ」
近所の人が心配する。
「大丈夫だよぉ」
そう笑ったが、
顔色は少し白かった。
運動会が始まる。
ぼたんは全力で走り、
大声で応援し、
誰より楽しそうだった。
そして最後。
高学年リレー。
「次は女子リレーです!」
ぼたんはバトンを握りしめる。
スタート前。
観客席を見た。
そこに、ハルがいた。
小さく手を振っている。
その姿を見た瞬間。
ぼたんは胸が熱くなった。
――ばあちゃんに、見せたい。
――頑張ってるところ。
ピストルの音。
選手達が一斉に走り出す。
ぼたんのチームは二位。
前との差は少しある。
「ぼたん!!」
友達の声。
バトンが渡る。
ぼたんは地面を蹴った。
全力だった。
風を切る。
息が苦しい。
足が痛い。
それでも。
ハルが教えてくれた。
――怖くても、一歩進むんだ。
ぼたんは前だけを見る。
そして。
最後の直線。
抜いた。
一位。
「ゴーーール!!」
歓声が上がる。
ぼたんは倒れ込むように止まった。
汗だくのまま、
すぐ観客席を見る。
ハルは泣いていた。
拍手をしながら。
何度も、何度も。
「……すごいよぉ」
その声は震えていた。
ぼたんは駆け寄る。
「ばあちゃん!!」
ハルはぼたんを抱きしめた。
「速かったねぇ……」
「頑張ったねぇ……!」
ぼたんは笑った。
でも。
ハルの体が、とても細くなっていることに気づく。
抱きしめる力も、前より弱い。
ぼたんの胸が少しだけ痛くなった。
昼休み。
二人でお弁当を食べる。
卵焼き。
タコさんウインナー。
少し焦げた唐揚げ。
「おいしい?」
「うん!」
ぼたんは大きく頷く。
するとハルは、嬉しそうに笑った。
「よかった」
その笑顔を見ながら、ぼたんは思った。
――今日のこと、ずっと忘れない。
秋空の下。
風が優しく吹いていた。




