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第十二話 「おかえり」

ぼたんが預けられて、七日目。


朝から落ち着かなかった。


「まだかな……」


佐々木家の窓から、何度も外を見る。


ランドセルも、今日はどこか元気がない。


「ぼたんちゃん、そんなに見ても早くならないわよぉ」


佐々木のおばちゃんが笑う。


でもぼたんは唇を尖らせた。


「だって、ばあちゃんかえるもん」


その時だった。


玄関のチャイムが鳴る。


ぼたんは勢いよく立ち上がった。


「はーい!」


扉を開ける。


そこには。


少し痩せたハルが立っていた。


「……ばあちゃん!」


ぼたんは飛びついた。


ハルはよろけながらも、

しっかり抱きしめる。


「ただいま」


その声は優しかった。


だけど前より少し細い。


ぼたんは涙をぽろぽろ流す。


「おそいよぉ……」


「ごめんねぇ」


「さみしかった……!」


ハルは何度も頭を撫でた。


「うんうん」


「頑張ったねぇ」


佐々木夫婦も、少し離れた場所で微笑んでいる。


帰り道。


ぼたんはずっとハルの手を握っていた。


離れないように。


消えてしまわないように。


平屋へ着くと、

懐かしい畳の匂いがした。


「みけー!!」


猫のミケも飛び出してくる。


ぼたんは嬉しそうに笑った。


その顔を見ながら、

ハルは静かに目を細める。


――帰ってこれた。


それだけで幸せだった。


夜。


二人で並んでご飯を食べる。


質素な鮭と味噌汁。


でもぼたんは言った。


「せかいいちおいしい」


ハルは吹き出した。


「大げさだねぇ」


「ほんとだもん!」


そのあと。


ぼたんは急に真剣な顔になる。


「ねぇ、ばあちゃん」


「ん?」


「もう、いなくならない?」


ハルの箸が止まった。


少しだけ沈黙。


そして。


優しく笑う。


「……できるだけ、長くいるよ」


嘘はつかなかった。


ぼたんは、その言葉を聞いて、

小さく頷いた。


夜更け。


ぼたんが眠ったあと。


ハルは一人、縁側に座っていた。


月が綺麗だった。


静かな風。


遠くの虫の声。


ハルは小さく咳をする。


前より弱くなった体。


でも。


部屋から聞こえるぼたんの寝息が、

ハルを生かしていた。


「……まだ、教えたいことがいっぱいあるんだよぉ」


そう呟きながら、

ハルは夜空を見上げた。

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