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お嬢様は本日も現実を無双する  作者: シロネル
1章

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第9話 大冒険いたしましたわ!

深淵大迷宮。


王国が長年攻略できずにいた、最大最悪のダンジョン。


地下へ潜るごとに濃くなる魔素。

狂い始める方位感覚。

侵食される精神。


普通の探索者なら、下層へ行くだけで発狂しますわね。


ですが。


「右方、三十メートル先に擬態型。壁に紛れておりますわ」

「うおっ!? 本当にいた!」

「前方通路、魔力罠三重構成。下手に踏むと全員消し飛びますわよ」

「解除班!!」

「左後方から魔獣接近。数は七。大型二」


攻略自体は順調でした。


なぜなら。


わたくしがいたからですわ。


……いやほんと、自分で言うのもなんですが、攻略難易度が違いすぎましたの。


魔素視認。


空間認識。


超広域感知。


並列思考。


本来、命懸けで探るべき罠も魔物も、わたくしには丸見えでした。


「サロメリア、休める時に休め」

「お気遣い感謝いたしますわ。ですが余裕ですの」

「全然余裕そうに見えねぇんだよなぁ……」


レオンが苦笑する。


まぁ実際、疲弊はしていました。


この深度。


空間そのものが歪んでいる。


常に術式補正を維持しないと、自我が侵食されそうになるほど濃密な魔素。


普通の術者ならとっくに壊れてますわ。


ですが。


「……この程度で止まっていては、お嬢様にはなれませんもの」


「その理屈ほんと意味わかんねぇよな」


ごもっともですわね。




そして。


攻略開始から十二日目。


わたくしたちは、最深部へ到達しました。


巨大な扉。


黒い鉱石で形成された異様な壁面。


脈打つように揺れる魔素。


嫌な予感しかしませんわね。


「……行くぞ」


レオンが剣を抜く。


全員が緊張していた。


そして。


重い音を立て、扉が開く。


その先に広がっていたのは――


「……は?」


底の見えない、大空洞でした。


絶壁。


闇。


遥か下方で揺らめく赤黒い光。


天井すら見えない。


まるで世界そのものに穴が空いているような光景。


「なんだ……これは……」


誰かが呟く。


わたくしも言葉を失っていました。


異常。


あまりにも異常。


空間構造そのものがおかしい。


魔素が渦巻いている。


まるで。


世界の傷口。


「……っ」


その時。


胸騒ぎがしました。


嫌な感覚。


本能が警鐘を鳴らしている。


ここは危険だと。


ですが。


「サロメリア様」


不意に。


王女アリシアが微笑んだ。


「少し、よろしいかしら」


「……えぇ」


わたくしは頷く。


レオンたちは周囲警戒へ。


そして。


わたくしと王女は、大空洞の縁へと歩いた。




吹き上がる風。


暗闇。


遠くで響く低い唸り声。


王女は静かに口を開く。


「ここまで、本当にありがとうございました」


「急ですわね」


「えぇ。感謝しているのです」


その横顔は。


どこか疲れて見えました。


「サロメリア様」


静かな声。


「貴女は強すぎます」


「……」


「誰よりも優秀で、誰よりも特別で、誰にも制御できない」


王女はこちらを見る。


その瞳に宿るのは。


嫉妬。


怨嗟。


そして。


少しの羨望。


「私は貴女になりたかった……」


「……だから?」


「だから――」


その瞬間。


どんっ、と。


胸を押された。


「……あら」


足元が消える。


身体が傾く。


視界が反転する。


奈落。


落下。


王女の顔が遠ざかる。


『さようなら』


その唇が、そう動いた気がしました。


「……はぁ」


わたくしは。


落ちながら。


ため息を吐きました。


「ほんっとに、不器用ですわねぇ……」


理解はしていました。


いつかこうなると。


だって。


わたくしは危険すぎた。


王国にとって。


人類にとって。


きっと。


レオンですら止められない。


だから。


ここで始末したかった。


合理的。


実に合理的ですわ。


「まぁ、死にませんけれど」


落下しながら術式展開。


並列演算開始。


空間認識。


重力干渉。


魔素噴射。


姿勢制御。


「――着地」


轟音。


わたくしは奈落の底へ降り立った。




そこは。


異界でした。


黒い地面。


脈打つ壁面。


空気そのものが重い。


濃密すぎる魔素が肉体を侵食してくる。


そして。


「――■■■■■■」


咆哮。


世界が震えた。


目の前。


巨大な“何か”が蠢いていた。


竜にも見える。


虫にも見える。


獣にも見える。


形が定まらない。


見るだけで精神が削られる異形。


「……これが」


ダンジョンボス。


深淵大迷宮、その核。


空間そのものを侵食する怪物。


「グ、ォォォォォォォ!!」


直後。


超高密度魔素砲撃。


空間ごと削り取る暴力。


ですが。


「危ないですわね!」


転移。


回避。


着弾。


地形消滅。


余波だけで岩盤が蒸発する。


「ちょっ、威力おかしくありません!?」


なんですのこのクソボス!


初見殺しにもほどがありますわ!


ですが。


わたくしは笑っていました。


「ふふ……」


久しぶりでした。


全力を出せる戦い。


死を感じる戦場。


血が熱い。


魔素が沸騰する。


「ならば――」


わたくしは魔素を解放する。


極限循環。


多重術式。


空間固定。


身体強化。


演算加速。


「わたくしが、勝ちますわ!!」


激突。


轟音。


世界が揺れる。


死闘でした。


何度も肉体を砕かれ。


魔力回路を焼き。


意識を飛ばしかけながら。


それでも。


積み重ねてきた努力だけは裏切らなかった。


赤子の頃から鍛えた魔素循環。


積み重ねた術式理解。


実戦経験。


演算。


工夫。


執念。


その全てを注ぎ込み。


最後に。


「――貫きなさいませ」


圧縮収束した空間槍が。


ダンジョンボスの核を穿った。


静寂。


崩壊。


そして。


眩い光。


「……え?」


世界が白く染まる。


空間が歪む。


身体が引き裂かれる感覚。


転移。


これは――


「まさか、世界間接続……!?」


その瞬間。


最後に見えたのは。


崩壊するダンジョン。


そして大量のボスドロップ!!


「まだ回収してませんのに~!!」


眩い光。


空間が捻じれる感覚。


身体が引き裂かれるような浮遊感。


視界が白に染まり――


次の瞬間。


「――っぶふ!?」


わたくしは勢いよく地面へ投げ出されました。


顔面から。


痛いですわ。


お嬢様がする着地ではありませんわね。


「いっっった……ぁ……」


石畳ではない。


硬い。


平坦。


ざらつく感触。


アスファルト。


その瞬間。


鼻先を掠めた匂いに、わたくしは目を見開きました。


排気ガス。


コンクリート。


人工的な空気。


遠くを走るエンジン音。


そして。


視界の先に並ぶ高層ビル群。


電光掲示板。


コンビニ。


自動販売機。


見慣れた日本語。


「……え」


心臓が跳ねた。


「う、そ……」


ふらりと立ち上がる。


道路標識を見つめる。


漢字。


ひらがな。


カタカナ。


日本語。


日本。


「……帰って、きた……?」


声が震える。


異世界ではない。


王都ではない。


石畳も魔導灯もない。


ここは。


わたくしが佐藤紗理奈として生きていた現代。


「っ……あ、は……」


涙が滲む。


「に、日本ですわぁぁぁぁぁぁ!!」


思わず叫んでしまいましたわ!


だって!


帰ってきたんですのよ!?


文明社会に!!


お風呂!


ベッド!


コンビニ飯!


ネット!


動画配信!


ブラック企業は嫌ですが文明は恋しかったんですもの!!


「もう野営しながら魔物肉焼かなくていいんですのねぇぇぇぇ!!」


感極まって半泣きですわ。


ですが。


その時でした。


――ウゥゥゥゥゥゥン!!


突如として。


街中に重苦しいサイレンが鳴り響いた。


『緊急警報。ダンジョン氾濫警報。住民は直ちに避難してください』


「……はい?」


わたくし、硬直。


ダンジョン。


今。


ダンジョンって言いました?


ざわつく街。


人々が一斉に走り始める。


「逃げろ!!」

「また溢れたぞ!!」

「警察は!?」

「自衛隊まだかよ!!」


混乱。


悲鳴。


怒号。


その先。


地下鉄駅の入り口付近。


コンクリートを突き破り、巨大な裂け目が広がっていました。


そこから溢れ出していたのは――


濃密な魔素。


そして。


「グルルルル……!!」


魔物。


狼型。


昆虫型。


異形。


ダンジョンから地上へ這い出るように、次々と溢れ出してくる。


「……えぇぇぇぇ……」


なにこれ。


なにこれぇ……。


わたくし、せっかく帰還したと思ったら日本が終末してますの?


しかも。


魔素濃度。


低いけれど確かに存在している。


つまり。


この世界。


ダンジョン発生によって魔素環境へ変質している。


「だから転移接続が成立した……?」


わたくしがこの世界へ飛ばされた理由。


異世界と現代。


魔素環境の類似。


ダンジョン。


世界接続。


脳裏に様々な仮説が浮かぶ。


ですが。


考察している場合ではありませんでした。


「きゃああああ!!」


魔物が逃げ遅れた女性へ飛びかかる。


反射的に。


身体が動く。


「危ないですわ」


指先を振る。


術式展開。


魔素圧縮。


重力偏向。


瞬間。


狼型魔物が空中で圧壊した。


ぐしゃり、と。


血飛沫。


アスファルトが陥没。


周囲の窓ガラスが一斉に割れる。


「……あ」


加減ミスですわ。


異世界基準の低出力だったんですが。


周囲が静まり返る。


ですが。


終わらない。


ダンジョンから魔物が溢れ続ける。


「ギシャアアア!!」


大型昆虫型。


気持ち悪いですわね。


脚が多い。


無理。


ほんと無理。


「はぁ……」


わたくしはため息を吐き。


魔素を展開した。


空間認識。


術式多重起動。


広域殲滅。


「消えなさいませ」


紅い魔法陣が空中へ展開される。


収束。


発射。


轟轟轟轟轟轟――ッ!!


爆炎。


衝撃波。


熱風。


溢れ出ていた魔物が一瞬で蒸発した。


ダンジョン入口周辺が半壊。


アスファルトが融解している。


「……またやりましたわね」


静寂。


周囲の人々が呆然とこちらを見ていた。


すると。


遠くからサイレン音。


警察車両。


装甲車。


そして。


迷彩服の武装部隊。


自衛隊。


銃口が一斉にこちらへ向く。


「対象確認!」


「動くな!!」


「両手を見せろ!!」


緊張感。


当然ですわね。


突然現れた女が街中で超常戦闘を始めたのですもの。


しかも被害規模がでかい。


わたくしでも怖いですわ。


部隊の中央から、一人の男が前へ出る。


鋭い視線。


短く整えた髪。


実戦慣れした立ち姿。


まだ若い。


ですが。


場数を踏んでいる目でした。


「……所属を答えろ」


低い声。


警戒。


敵意。


そして責任感。


この状況をなんとかしようとしている人の目ですわね。


わたくしは少しだけ目を細める。


あぁ。


この世界にも。


ちゃんと戦っている人がいるんですのね。


なら。


せめて優雅に名乗りましょう。


わたくしはスカートを摘み。


お嬢様らしく一礼する。


「お嬢様になりたい一般人」


そして堂々と胸を張った。


「メリー・アストレアですわ!!」


沈黙。


風が吹く。


隊員たちが顔を見合わせる。


そして。


隊長らしき男――後の瀬波卓郎は。


ひどく疲れた顔で言いました。


「……一般人?」


「一般人ですわ!」


「今、ダンジョンごと半壊させましたよね?」


「些細なことですわ!」


「些細ではありません」


「細かいことを気にする男性はモテませんわよ」


「その理論で押し切ろうとしないでください」

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