第10話 ひらめいたのですわっ!!
「――確保します」
「えっ」
気づいた時には。
わたくしの周囲を完全武装の自衛隊員が取り囲んでおりました。
銃口。
装甲車。
物々しい空気。
ものすごく警戒されていますわね。
まぁ街中で魔物を吹き飛ばしてダンジョン周辺ごと半壊させましたもの。
仕方ありませんわ。
「武装解除してください」
「武装?」
わたくし、自分の身体を見下ろす。
ドレス。
手袋。
髪飾り。
以上。
「どこに武装がありますの?」
「あなた自身です」
「まぁ」
思わず頬に手を当ててしまいましたわ。
そんな褒められ方をするなんて。
「褒めてません」
「心外ですわね」
ですが。
抵抗はしませんでした。
この世界の情報が欲しかったのもありますし。
それに。
この人たち、ちゃんと人を守ろうとしていましたもの。
恐怖を抱えながらも前に出ている。
それはわかります。
だから。
わたくしは素直に拘束されることにしました。
なお。
「……手錠、壊れました」
「えっ」
「すみません。無意識に身体強化してましたわ」
「…………」
現場の空気が凍りました。
違いますのよ!?
逃げる気はありませんでしたの!
ただ、異世界生活長すぎて常時循環が癖になってるだけで!
結局。
魔素抑制用らしき分厚い拘束具を追加されました。
まぁ意味ありませんけれど。
空気を読んで黙っておきますわ。
◇
連行された先は。
地下施設を併設した大規模自衛隊基地でした。
厳重警備。
多重隔壁。
緊急司令室。
そして。
漂う疲弊感。
「……」
わたくしは案内されながら周囲を見回す。
負傷者。
慌ただしく走る隊員。
モニターに映る被害地域。
どこも余裕がない。
戦争中の国家みたいですわね。
実際。
そうなのでしょうけれど。
通された会議室。
向かいに座ったのは、先ほどの隊長。
「改めて。自衛隊特殊災害対策群所属、瀬波卓郎です」
「メリー・アストレアですわ」
「本名は?」
「メリー・アストレアですわ」
「……」
「……」
「……本当に?」
「お嬢様に二言はありませんわ」
「そうですか……」
ものすごく疲れた顔をされましたわ。
なぜですの。
その後。
事情聴取が始まりました。
ですが。
説明しているうちに。
わたくしの方が絶句することになります。
「……つまり」
机に並べられた資料。
映像。
被害写真。
衛星画像。
「世界各地に突如ダンジョンが発生」
「はい」
「そこから魔物が溢れ続けている」
「はい」
「国家間戦争どころではなくなった」
「はい」
「現在進行形で人類滅亡の危機」
「はい」
「……終わってますわね?」
「えぇ、かなり」
瀬波は真顔でした。
冗談ではない。
現実なのです。
ダンジョン発生から、およそ二年。
世界は激変した。
突如として各地に出現した地下迷宮。
そこから溢れ出る魔物。
初期対応は壊滅的。
警察では対処不能。
軍隊投入。
都市崩壊。
経済混乱。
国家機能麻痺。
各国は互いに争う余裕を失い、人類全体で魔物対処へ舵を切った。
幸い。
現代火器は一定効果を持っていた。
低級魔物なら銃火器で討伐可能。
戦車。
航空爆撃。
ミサイル。
高火力兵器は有効。
ですが。
「高位個体になると通常火器では火力不足になります」
映像が流れる。
巨大な魔物。
砲撃。
爆炎。
それでも止まらない。
「……あらまぁ」
「人的被害は現在も増加中です」
「魔素研究は?」
「進んでいません。そもそも観測自体が困難です」
「術式理論は?」
「存在しません」
「循環制御は?」
「……?」
「……」
あっ。
なるほど。
この世界。
魔素利用技術が存在していない。
いや。
正確には。
入口にすら立てていない。
だから。
魔物に対抗できない。
「ふむ……」
わたくしは紅茶の代わりに出されたインスタントコーヒーを口に含む。
苦いですわね。
でも。
頭は冴える。
そして。
ふと。
閃いてしまいました。
「あ」
「どうしました?」
「いえ、簡単なことでしたわ」
わたくしは椅子に深く腰掛ける。
そして。
にっこり微笑みました。
「育てればよろしいんですのよ」
「……何をです?」
「魔物に対抗できる人材ですわ」
瀬波が眉をひそめる。
当然ですわね。
ですが。
わたくしには見えていました。
可能性が。
この世界の人間。
魔素適性そのものは低くない。
知識がないだけ。
理論がないだけ。
体系化されていないだけ。
なら。
「探索者を育成しますわ」
「探索者?」
「魔物を狩り、ダンジョンを攻略する専門職ですの」
異世界では当たり前だった概念。
ですが。
この世界にはまだない。
だから。
作ればいい。
育てればいい。
理論を。
技術を。
戦い方を。
「わたくしが教えますわ」
その瞬間。
会議室が静まり返った。
瀬波がじっとこちらを見る。
警戒。
困惑。
そして。
ほんの少しの希望。
「……本気ですか?」
「もちろんですわ」
わたくしは胸を張る。
「わたくし、優雅なお嬢様ですもの」
「その理論、本当にわからないんですが」
「ノブレス・オブリージュですわよ」
力ある者には責任がある。
異世界で嫌というほど学びました。
そして。
何より。
わたくしは見てしまった。
この世界の人々の顔を。
怯えながらも戦う兵士たち。
泣きながら避難する人々。
壊れた街。
絶望。
――あぁ。
放っておけませんわね。
結局。
わたくし。
こういうのを見捨てられないんですの。
「名称は――そうですわね」
わたくしは軽く考え。
そして告げる。
「探索者協会、なんてどうかしら?」
その時のわたくしは。
まさか。
数年後。
自分がその探索者協会の会長として、国会と各国首脳と軍部と財界とマスコミに胃を痛めることになるなど。
夢にも思っていませんでしたわ。




