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お嬢様は本日も現実を無双する  作者: シロネル
3章

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33/38

第33話 お会議ですわ

「…………」


 沈黙。


 本当に数秒。


 だがその場にいた全員が、“今なにか致命傷が入った”ことを察していた。


 メリーは静かに瞬きをする。


 赤い瞳がわずかに揺れていた。


 国家級災害へ単独突入しても表情一つ変えない人物とは思えない。


『あ、えっと……』


 フィーネが少し焦る。


『変なこと言っちゃった……?』


「いえ」


 メリーは小さく首を横へ振った。


 その動作は普段よりほんの少し遅かった。


「……少々、不意打ちでしたの」


『えっ』


「そのように言われることに慣れておりませんので」


 静かな声だった。


 取り繕うような気配がない。


 本当にそのまま口から出た言葉。


 だからこそ。


 フィーネも少しだけ言葉を失う。


 画面越し。


 互いに沈黙。


 瀬波はそっと胃薬を飲んだ。


 最近、“メリー様が人間らしい感情をぶつけられる瞬間”に立ち会う頻度が増えている。


 良いことなのだろう。


 多分。


 胃には悪いが。


『……でも』


 フィーネが、少し困ったように笑う。


『メリー様って、なんか頑張りすぎるタイプっぽいから』


「否定はできませんわね……」


『ですよねぇ』


 ふわりと。


 少しだけ空気が和らぐ。


 メリーも小さく笑った。


 その表情を見て、研究員達が内心ざわつく。


 珍しい。


 本当に珍しい。


 この人が、こんな自然に笑うのは。


 学術院設立以降、メリーはずっと張り詰めていた。


 人類育成。


 魔素災害。


 国家間調整。


 探索者制度整備。


 誰より先に立ち続けている。


 だから。


 今みたいな顔をすること自体、ほとんどなかった。


『あ、でも安心しました』


「何がですの?」


『ちゃんと人間っぽかったので』


「またそれを言いますの?」


『だってニュースだとほんと怖いんだもん!』


 フィーネが思わず素で言った。


 すぐに「あっ」という顔になる。


『ち、違っ……! 悪い意味じゃなくて!』


「ふふ」


 メリーが笑った。


 小さく。


 だが確かに。


「構いませんわ。事実ですもの」


『いやでも……』


「私は実際、多くを壊せます。だから恐れられるのは当然ですわ」


 その言葉に。


 少しだけ空気が静まる。


 重い。


 言葉の実感が。


 メリーは淡々としている。


 だがそれが逆に、彼女がどれだけ現実として受け止めているかを感じさせた。


 フィーネは少し迷う。


 画面越しに視線を揺らす。


 そして。


『……でも』


 静かに口を開いた。


『それだけじゃないと思いますよ』


「…………」


『配信見てくれてた話とか、研究とか、人育ててる話とか聞いてると……ちゃんと“優しい人”なんだなって分かるし』


 その瞬間。


 メリーの指先がわずかに止まった。


 優しい。


 その言葉もまた。


 随分久しぶりに向けられた気がした。


 異世界では。


 そんな余裕はなかった。


 戦うだけで精一杯だった。


 守るだけで限界だった。


 だからいつしか、“優しい”なんて言われなくなった。


 怪物。


 英雄。


 魔王。


 救世主。


 呼ばれたのはそんなものばかりだ。


 けれど今。


 画面の向こうの少女は、まるで当たり前みたいにそう言った。


 メリーは少しだけ目を伏せる。


 胸の奥が妙に静かだった。


 痛いわけではない。


 苦しいわけでもない。


 ただ。


 凍っていた場所へ、少しだけ熱が戻る感覚に近かった。


「……困りますわね」


『えっ』


「貴方、無自覚にそういうことを仰いますの?」


『え、えぇ!? 私なんか変なこと言った!?』


「ええ。かなり」


『ご、ごめんなさい!?』


 フィーネが慌てる。


 その様子があまりにも“普通”で。


 メリーはまた少し笑ってしまった。


 世界最強として扱われない。


 腫れ物みたいに距離を取られない。


 ただ会話している。


 それだけのことが、どうしようもなく新鮮だった。


 その時。


 橘の端末へ通知が入る。


 彼女の表情が少し変わった。


「……メリー様」


「なんですの?」


「関西第三支部。小規模ゲート反応です」


 空気が変わる。


 ほんの一瞬で。


 メリーの雰囲気も切り替わる。


 先ほどまでの柔らかさが静かに消えた。


 代わりに現れるのは。


 人類最高戦力としての顔。


「規模は?」


「現時点ではC級相当。ただし内部魔素濃度が通常値より高いです」


「新人班は?」


「避難誘導中」


「上位探索者を回しなさい。位相観測は継続」


「了解」


 指示が速い。


 迷いがない。


 フィーネはその様子を画面越しに見て、小さく息を呑んだ。


 ニュースで見る“メリー・アストレア”がそこにいた。


 空気が違う。


 存在感が違う。


 優雅なのに、圧倒的。


 まるで別人だった。


 だが。


「……申し訳ありませんわ」


 メリーはすぐフィーネへ向き直った。


「少々仕事が入りましたの」


『あ、いや全然! そりゃそうですよね!?』


「本日はお時間いただき感謝いたします」


『こちらこそ……!』


 フィーネは少し迷ってから、小さく笑った。


『……またお話しましょうね』


 その言葉へ。


 メリーはほんの一瞬、目を見開く。


 また。


 次がある。


 当たり前みたいに。


 自然に。


 それを言われることへ、彼女はまだ慣れていなかった。


「……ええ」


 だから。


 返事は少しだけ遅れた。


 けれど。


 その声は、驚くほど柔らかかった。


「ぜひ、また」

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