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お嬢様は本日も現実を無双する  作者: シロネル
3章

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25/38

第25話 事後処理問題ですわ、、

 戦闘終了から三十分後。


 新宿西口区域は、未だ熱を帯びていた。


 焼け焦げたアスファルト。蒸気を上げる道路。崩れ落ちた魔物の残骸。それらを探索者部隊と回収班が慌ただしく処理している。だが前回の災害対応と比較すれば、被害規模は明らかに小さかった。


 倒壊建築物、ゼロ。


 周辺インフラ被害、軽微。


 人的被害、なし。


 信じ難い戦果だった。


 通常、A級災害級ゲート戦闘は街一つを半壊させてもおかしくない。ましてメリー・アストレアが全力戦闘を行えば、周辺区画ごと地形が変わる可能性すらある。


 だが今回は違った。


 超広域殲滅術式を使用したにも関わらず、被害は極端に限定されている。


 それがどれほど異常か、現場の人間ほど理解していた。


「……いや意味が分からない」


 回収班の技術員が呟く。


「なんでビル無事なんだよ」


「熱量自体は前回以上だったぞ……」


「術式干渉で衝撃方向制御してるっぽい」


「そんなこと人間ができるのか?」


「してるんだよなぁ……」


 現場は半ば呆然としていた。


 一方その頃。


 メリー本人はというと。


「…………」


 現場指揮車両の簡易椅子で死んだ目をしていた。


 魂が抜けている。


 完全に。


「会長」


 瀬波が缶コーヒーを差し出す。


「お疲れ様です」


「……ありがとうですわ」


 受け取る動きに覇気がない。


 さっきまで都市規模殲滅魔法を放っていた人物と同一人物とは思えない。


「今回は随分被害抑えましたね」


 瀬波がタブレットを確認しながら言う。


「正直驚きました」


「ふっ……」


 メリーが遠い目をした。


「努力しましたもの……」


「努力?」


「前回ですね」


 彼女は静かに空を仰いだ。


「修理費請求がすごかったんですの」


「現実的な理由だった」


 いや知ってた。


 この人、案外そこ気にする。


「道路陥没」

「高層ビル外壁損傷」

「地下鉄振動被害」

「広域ガラス破損」

「商業施設営業停止補償」


 メリーは指折り数え始める。


「あと何より」


 すっと真顔になった。


「事後処理書類」


 瀬波が察した顔になる。


「あー……」


「わたくし、三日徹夜しましたのよ?」


「でしょうね」


「戦闘報告書」

「術式使用申請書」

「被害状況確認書」

「国家対応協議資料」

「海外問い合わせ回答」

「記者会見原稿確認」


 メリーは段々死んだ声になっていく。


「あと保険関係」


「あっ」


「あと都庁との調整」


「あっ……」


「あと学術院への苦情」


「苦情?」


「“会長の術式で髪が爆発ヘアーになった”とかですわ」


「知らないですよそんなの」


 メリーは机へ突っ伏した。


「だから今回は頑張りましたの……」


 ぼそっと呟く。


「極力、衝撃方向制御して……」

「熱拡散抑えて……」

「空間圧縮で内部爆散に留めて……」


 言ってる内容は化物なのだが。


 動機が完全に社畜。


「人類最強が“書類減らしたいから”被害抑えるの、なんか嫌ですね……」


「事務処理を舐めてはいけませんわ」


 メリーは顔だけ上げる。


「戦争より恐ろしいですわよ」


「経験談みたいに言う」


「経験談ですもの」


 異世界でも。


 戦後処理。


 復興。


 補給。


 統治。


 それらは常に地獄だった。


 戦うだけなら簡単なのだ。


 終わった後が大変なのである。


「そもそも!」


 メリーは急に勢いよく起き上がった。


「なぜ人類は何かあるたびに書類を書かせますの!?」


「社会だからです」


「現場判断でいいでしょう!?」


「よくないから現在があります」


 瀬波のツッコミが冴え渡る。


「しかも今回!」


 メリーはタブレットを見て顔を引き攣らせた。


「“術式規模が国家戦略兵器相当のため詳細提出願います”って来てますわ!」


「来るでしょうね」


「毎回これですの!?」


「毎回です」


「嫌ですわーーーーーっ!!」


 悲鳴が新宿に響いた。


 なお周囲探索者達は慣れた顔をしていた。


「会長また書類で死んでる」

「いつもの」

「戦闘よりダメージ受けてない?」


 実際受けている。


 メリーは本気でうんざりしていた。


「もういっそ全部燃やして」


「駄目です」


「まだ言い終わってませんわよ!?」


「どうせ碌でもない」


 即座に却下される。


 メリーはぐぬぬ顔になった。


 そんなやり取りを見ながら、現場スタッフ達は少しだけ肩の力を抜いていた。


 ついさっきまで、あれほど圧倒的な力を見せていた存在が。


 今は書類で半泣きになっている。


 その落差が妙に人間臭くて。


 少し安心してしまうのだ。


「……でも」


 瀬波がふと呟く。


「今日は本当に綺麗でしたよ」


「?」


「術式制御」


 メリーが少し目を瞬かせる。


「被害ゼロに近付けながら、あの規模を制御するの」


 瀬波は苦笑した。


「正直、意味分からなかったです」


「ふふん♪」


 途端に機嫌が戻る。


 分かりやすい。


「当然ですわ!」


 メリーは胸を張った。


「お嬢様たるもの、優雅さと繊細さを両立してこそ!」


「なお書類は両立できない模様」


「やめてくださいまし」


 即死した。


 そんな騒がしい空気の中。


 遠くでは、まだ無人ドローンが空を飛んでいた。


 今日の戦闘映像は、既に世界中へ拡散され始めている。


 人類最強。


 救世主。


 怪物。


 様々な呼び名が飛び交う中で。


 今もっともSNSで拡散されている言葉は、案外単純だった。


『メリー様、美しすぎる』


 ――本人は書類で泣いていたが。

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