第六話:空飛ぶ刺客と、銀色のいたずらっ子
「見えるもの」と「見えないもの」の境界線。
第6話では、正体不明の「又無博士」がついに直接ハルキに接触してきます。最初は優しく微笑む大人の仮面を被っていますが、その裏に隠された執念は、日常を脅かすほど深いものでした。ハルキの「二つの視界」の使い分けが、絶体絶命のピンチを救う鍵となります。
夕暮れ時の帰り道。ハルキはユキちゃんたちと別れ、一人で住宅街を歩いていた。
ふと空を見上げると、一機のドローンが不気味な羽音を立てて旋回していた。 ハルキが足を止めると、ドローンはゆっくりと高度を下げ、目の前でホバリングを始めた。内蔵されたスピーカーから、穏やかで落ち着いた男の声が流れる。
『やあ、こんにちは。驚かせてしまってご免なさい。私は**又無**。しがない科学者ですよ』
ドローンはまるでお辞儀をするように、機体を軽く傾けて見せた。
『君が持っているその素敵な「本」、少し興味がありましてね。教育的な調査の一環として、私に見せてはくれないかな? 大丈夫、すぐにお返ししますよ』
ハルキはリュックをぎゅっと抱きしめた。
「……嫌です。これはぼくの、大事な本だから」
ハルキがはっきりと断ると、ドローンのレンズが不気味に赤く発光した。 スピーカーから漏れる声は、一瞬にして冷酷なものへと一変する。
『……生意気なガキめ。大人が優しく言っているうちに渡せばいいものを。よかろう、ならば力ずくで奪わせてもらう! 捕獲アーム、展開!』
ドローンの下部から鋭い金属の爪が突き出し、ハルキに襲いかかる。 ハルキが身をすくませた、その時だった。
――ガリガリッ、メキッ!
「えっ……?」
目の前のドローンが、突然苦しそうに激しい火花を散らした。 誰かが攻撃しているわけでもないのに、プロペラの付け根から嫌な音が響き、機体がガタガタと震え出す。
(なにか……何かが起きている!)
ハルキは咄嗟に、鼻に載せていたメガネを指で上に跳ね上げた。
視界が急にぼやけ、夕暮れの世界が曖昧に溶けていく。 しかし、その「ぼやけた世界」の境界線に、はっきりとその姿は映っていた。
ドローンのプロペラにまたがり、銀色のネジ頭のような帽子を被った小さな妖怪が、一生懸命に重要なネジを回して引き抜こうとしていたのだ。
「……**ネジカクシ**!」
ハルキがその名を呼んだ瞬間、妖怪が銀色のネジを「よいしょ」と引き抜いた。
次の瞬間、回転していたプロペラが一つ、ポロッと外れて宙を舞った。 バランスを崩したドローンは、真っ逆さまに地面へと落下していく。
「ド、ドカーン!」
地面に激突し、煙を上げるドローン。 スピーカーからは、うろたえた博士の叫びが漏れ聞こえてきた。
『な、なんだ! 何が起きた! 整備は完璧だったはずだ! ……まさか、またあいつらの仕業か! おのれカクシ共め、次は必ず……!』
ブツッ、と通信が途絶えた。
ハルキが呆然としていると、足元に銀色のネジを抱えたネジカクシがトコトコと歩いてきた。
ハルキはぼやけた視界の中で、そっと手を差し出した。
「……きみが、助けてくれたの? ありがとう」
ネジカクシは銀色のネジを誇らしげに掲げ、ハルキの手のひらにポンと置いた。 その瞬間、ハルキのリュックの中で図鑑が温かな光を放つ。 ハルキは図鑑を開き、ネジカクシの姿をページに刻み込んだ。
> **【カクシ図鑑 No.04:ネジカクシ】**
> **特徴**:銀色のネジ頭のような帽子を被った、手のひらサイズの小さな妖怪。
> **習性**:精巧な機械であればあるほど、その重要なネジを隠したくなる。
> **仲良くなるコツ**:バラバラになったネジを見て「かっこいいね」と褒めてあげること。
>
図鑑のページにネジカクシとの「トモダチの証」が黄金色に輝いた。
ハルキは再びメガネをかけ直し、静かになった夕暮れの道を一歩踏み出した。
第6話をお読みいただきありがとうございます。
メガネをかけていると「ドローンが勝手に壊れた」ようにしか見えない、という設定を活かしてみました。 ハルキが自らメガネを外して「真実」を見にいくシーンは、彼が少しずつ勇敢になっている証拠でもありますね。
新しく登場した「ネジカクシ」、博士の発明品をいつも台無しにしているのは彼のような存在だったようです。 博士のキレっぷりも回を追うごとに激しくなりそうですが……笑。
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「組み立てようとした家具のネジが一本足りない」「いつの間にか消えたイヤホンのチップ」など……。
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