第五話:ボサボサの理由と、忍び寄る「無」の足音
「隠されたもの」と「大切にされているもの」の境界線。
第5話では、ハルキがついに二体目のカクシ妖怪と「トモダチ」になります。武器で戦うのではなく、相手のこだわりを認めるハルキらしい解決法が見どころです。しかし、そんな優しさの裏側で、不可解な気配を察知した謎の男が静かに動き出します。
ハルキは、ぼやけた視界の中でじっと動かずにいた。
メガネを外したハルキの目には、ユキちゃんの椅子の背もたれに、小さな影がしがみついているのがはっきりと見えている。そいつは奪ったばかりのピンクのシュシュを大切そうに両手で抱え、大きな単眼を細めてクスクスと笑っていた。
「……ヘアゴムカクシ」
ハルキがその名を呟き、一気にメガネをかけ直す。
世界がガチリとピントを合わせた瞬間、妖怪の姿はかき消えた。けれど、ハルキのリュックの中では、重厚な本『カクシ図鑑』がドクンと脈打っている。
ハルキは机の下で、こっそりと『カクシ図鑑』を開いた。そこには、新しいページの記述が浮かび上がってい
【カクシ図鑑 No.03:ヘアゴムカクシ】
習性: 女の子のお気に入りのヘアゴムを隠して、困る顔を見るのが大好き。
仲良くなるコツ: 隠されているアイテムを「素敵だね」と、持ち主と一緒に褒めてあげること。
(……そっか。これ、ユキちゃんが自慢してたシュシュだもんね)
ハルキは勇気を出して、斜め前の席に座るユキちゃんに向かって、わざと大きな声で話しかけた。
「ねえ、ユキちゃん! さっきのシュシュ、すっごく似合ってたよ! ピンク色で、キラキラしてて、本当にかわいいよね」
「えっ……? あ、ありがと。でも、なくなっちゃったのよ……」
ユキちゃんはボサボサの頭を恥ずかしそうに抑えながら、悲しげに呟いた。
ハルキは、誰もいないはずのユキちゃんの椅子の背もたれを、メガネを外した時の記憶を頼りにそっと見つめた。
「あんなに素敵なシュシュ、なくなっちゃうなんて本当にもったいないな。……ねえ、ヘアゴムカクシくんも、そう思うでしょ?」
その瞬間、空気がふわりと揺れた。
ハルキに「センス」を認められ、同時にユキちゃんの悲しそうな声を聞いたヘアゴムカクシは、急に胸がチクッとしたようだ。
ポスン、と軽い音を立てて、ユキちゃんの足元にシュシュが転がり落ちた。
「あ、あった! なんでこんな足元に!?」
ユキちゃんがシュシュを拾い上げ、嬉しそうに髪を結び直す。
「サンキュ、ハルキ! あんたに褒めてもらったから、見つかったのかも!」
弾けるようなユキちゃんの笑顔の隣で、ヘアゴムカクシは照れくさそうに単眼をパチパチさせ、スッと姿を消していった。
図鑑のページが黄金色に輝き、トモダチの証が刻まれる。
ハルキは小さな達成感に包まれたが、その様子を校舎の屋上から不気味な瞳で見つめる男がいた。
又無博士だ。
「ふむ……あの少年、妙な気配をまとっているな」
博士は歪んだメガネの奥で目を細めた。少年が何を抱えているかまでは見えない。しかし、言葉一つで世界の「理」を揺らしたその瞬間の揺らぎを、博士の感覚は逃さなかった。
「見つからないはずのものが、見つかる……。不可解な力だ。だが、無駄なこと」
博士が冷徹な笑みを浮かべて指を鳴らすと、待機していた一体のドローンが、それに応えるように羽音を立てて飛行を開始した。
「すべてを『無』にしてしまえば、探す必要すらなくなるのだからな」
ハルキが空を見上げたとき、ドローンはすでに夕闇の向こうへと消えていた。
第5話をお読みいただきありがとうございます。
ハルキらしい、相手の「好き」を肯定するトモダチの作り方、いかがでしたでしょうか。
物語の裏側では、ついに又無博士が不穏な動きを見せ始めました。ドローンが向かう先に何が待ち受けているのか……ハルキの日常は、少しずつ大きなうねりに巻き込まれていきます。
【エピソード大募集!】
ここで読者の皆様にお願いです!
皆様が最近「あれ、さっきまであったのに!」と失くしてしまったものについて、レビュー欄でエピソードを募集します。
「洗濯機の後ろに消えた靴下」「なぜか一本だけなくなるスプーン」「大事な時に限って見当たらない印鑑」などなど……。
頂いたエピソードを元に、今後ハルキの『カクシ図鑑』に新しい妖怪として登場させるかもしれません。皆様の身近に潜む「カクシ」の気配を、ぜひ教えてくださいね!
次回の更新もお楽しみに!




