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カクシ図鑑〜あなたの失くしたものは実は小さな妖怪のしわざかも?  作者: とある三姉妹の父


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第二話:カクシ里の主と、一冊の図鑑

「失くしものは、すぐそばに隠れているだけなんだ」

誰にでも経験があるはずです。さっきまでそこにあったメガネ、大切にしていた髪ゴム、そして、つい口走ってしまった怒りの言葉。それらが忽然と消えてしまったとき、私たちはただ「運が悪かった」と諦めてしまいます。

でも、もしその背後に、私たちの目には映らない「誰か」のいたずらが隠れているとしたら?

本作の主人公、小学1年生のハルキは、メガネを外した「ぼやけた世界」でだけ、日常に潜む妖怪たちの姿を視認することができます。これは、一人の少年が不思議な本を手に、家族や仲間の周りで起きる「隠された事件」を解決していく、小さくて大きな冒険の記録です。

ピクサー作品のような温かみのあるビジュアルと、どこか懐かしい日本の風景。その境界線で繰り広げられる、優しくも切ない「図鑑作り」をどうぞお楽しみください。

光を放つ鳥居『カミカクシ』に吸い込まれたハルキが、おそるおそる目を開けると、そこは重力を忘れたような場所だった。

空は深い紫色とオレンジ色がマーブル状に混ざり合い、足元には地面が見えないほど「モノ」が溢れている。片方だけの靴下、折れた鉛筆、インクの切れたボールペン。

「これ、お父さんの自転車の鍵だ」

ハルキは足元に転がっていた、見覚えのあるキーホルダーを拾い上げた。すると、頭上から砂利を噛んだような、けれどどこか温かい声が降ってきた。

「勝手に触るでない。それはまだ『保管中』の身だからの」

ガラクタの山の頂上に座っていたのは、ボロボロの和服のようなものを着て、長い髭を蓄えた老人だった。里の主、**クラカクシ**だ。

「お前さん、面白い目をしておるな。メガネを外してここへ来るとは。……だが、感心している場合ではないぞ」

クラカクシが杖で指し示した空の一角には、どす黒い赤色をした、巨大な風船のような塊が浮いていた。それは生き物のようにドクンドクンと脈打ち、今にも破裂しそうなほどパンパンに膨らんでいる。

「あれは、お前の母親の『怒り』じゃ。**イカリカクシ**がお前の家の平和を守るために、毎日せっせと盗んではここに運び込んだゴミの山よ」

ハルキは息を呑んだ。お母さんが怒ってもすぐ許してくれるのは、この赤い妖怪が、お母さんの心から怒りを盗んで隠していたからだったのだ。

「あれが破裂すれば、数年分の怒りが持ち主に逆流する。そうなれば、お前の家は終わりじゃな。……どうする、見える子よ」

「……ぼく、お母さんを助けたい!」

ハルキの決意を聞くと、クラカクシは蔵の奥から、ずっしりと重厚な革表紙の**本**を取り出した。表紙には金色の刺繍で、**『カクシ図鑑』**という文字が刻まれている。

「ならばこれを持て。カクシたちの正体を知り、その名を認め、友達になるのじゃ。そうすれば隠されたモノは『思い出』に変わり、あの風船も小さくなるだろう」

ハルキがその本を胸に抱えた瞬間、視界が激しく揺れた。

「――おいハルキ! 急に走り出したと思ったら、こんなとこで何してるんだよ」

聞き慣れた声に弾かれるように顔を上げると、そこは元の薄暗い路地裏だった。

目の前では、ハルキと同じように「アホ毛」をぴょこんと揺らしたお父さんが、膝に手をついて肩で息をしていた。

ハルキはいきなり手を離して駆け出し、この古い石の鳥居の前で、まるで時間が止まったように棒立ちになっていたのだ。

「……お父さん」

「なんだよ、びっくりさせるなよ。……ん? ハルキ、その本どうしたんだ?」

お父さんは怪訝そうに眉をひそめ、ハルキの手元を指差した。

「さっきまで、そんなの持っていなかっただろ。どこかで拾ったのか? ずいぶん古そうだけど……」

「これ、大事なものなんだ」

ハルキがぎゅっと本を抱きしめてそう答えると、お父さんは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにいつもの柔らかな笑みに戻った。

「そうか。ハルキが見つけたなら、きっと特別な本なんだな。……でも、そんなとこで固まってないで帰るぞ。お母さん、今夜はハンバーグだって言ってたろ? 遅くなると、またお父さんまで一緒に怒られちゃうからさ」

お父さんはハルキの小さな手を力強く握り直した。お父さんも鍵をよく失くしてはお母さんに怒られているけれど、お母さんの怒りが「イカリカクシ」によって盗まれ、あの里で爆発寸前になっていることなんて、今はまだ何も知らない。

夕暮れの街を歩き出すハルキのメガネ越しには、家の玄関で獲物を待つように座る、真っ赤な毛玉の**イカリカクシ**の姿がはっきりと見えていた。

(ぼくが、図鑑を埋めて、お母さんを助けるんだ)

ハルキは繋いだお父さんの手をぎゅっと握り返し、前を見据えた。


第2話までお読みいただきありがとうございます。

本作の着想は、「子供がメガネを外したときに、視力が悪いからこそ見える不思議な世界があるのではないか?」という日常のふとした疑問から生まれました。

物語の鍵となる『カクシ図鑑』を受け取ったハルキですが、彼を待ち受けているのは単なる妖怪退治ではありません。本作には、お父さんやお母さん、そして学校の友人たちといった、個性的で愛らしいキャラクターたちが多数登場します。

• ハルキ: 丸メガネと、上にカーブした特徴的な一本のアホ毛がトレードマークの主人公です。

• ユキちゃん: 元気いっぱいのヒロイン。髪ゴムを隠されると、自慢のサラサラ髪が一気にボサボサになってしまいます。

• お父さん: 息子と同じくアホ毛があり、鍵をよく失くしては大量の予備をストックしている、どこか憎めない性格です。

また、作中に登場する「イカリカクシ」や「メガネカクシ」といった妖怪たちは、私たちの日常にある「あるある」を具現化した存在です。ハルキが彼らとどのように向き合い、お母さんの肩に乗る「怒りの塊」をどう解きほぐしていくのか。

今後の展開では、謎の「又無博士(マタナシ博士)」や、さらなるユニークなカクシ妖怪たちが続々と登場する予定です。

ハルキの視界を通して、皆様の日常も少しだけ違った色に見えるようになれば幸いです。次回の更新もぜひご期待ください!

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