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第5話 再びの屋上で見たもの


 校舎の階段を四階まで一気に駆け上がる。

 屋上への立ち入りを禁止するためのポールを渡したカラーコーンの横をすり抜ける。


 その先の階段を踊り場で折り返した時、屋上のドアが半開きになっているのが見えた。

 屋上が出入りできる状態なのは間違いない。

 

 残りの階段を登り切り、飛び込むように入口を潜った。


 屋上の中央あたり。

 予想通り神谷先輩がいた。

 だけど何だか様子がおかしい。


「……ハァ……ハァ」


 僕は息を整えながら神谷先輩の様子を観察した。


 今日も左目に眼帯をしているようだ。

 だけど確認するまでに時間が掛かってしまった。

 神谷先輩が長い黒髪を振り乱しながら激しく動いているためだ。


 ダンスとかそういう類の動きではない。

 なんとなくドッチボールのときの動きに似ているような印象を受けた。

 相手を見据えた状態でボールを必死に避けているような。


 だけど屋上にいるのは僕を除けば神谷先輩一人だ。

 当然ながらそんな動きをする理由があるとは思えない。

 妙だった。


「あっ」


 僕は思わず声を上げていた。


 神谷先輩がジャンプしたからだ。

 ちょっとやそっとの跳躍ではない。

 明かに4メートル以上跳んでいる。

 確か走り高跳びの世界記録でも2.5メートルは超えてなかったはずだ。


 人間離れした動きに僕は唖然とした。


 空中にいる神谷先輩がこちらを見て視線を止めた。

 僕がいることに気付いたらしい。


「大石君!? 屋上に来ては駄目と言ったじゃない!」


 神谷先輩が着地と同時に叫んだ。


「早く逃げて!」


「え? 逃げる!? どうしてですか?」


「くっ!」


 訳が分からず立ち尽くしている僕に向かって神谷先輩が猛スピードで走って来る。


 そして神谷先輩に勢いよく突き飛ばされた。


 後ろに跳ね跳ばされながら僕は信じられない現象を目撃した。

 なんと、それまで僕がいた場所のコンクリート床が削られてえぐれてしまったのだ。


 一体、何が起こったんだ!?


 尻もちをついている僕を尻目に、神谷先輩が床に落ちたギターケースを開けた。

 素早く取り出した日本刀の鞘を払う。

 そして僕を背にして刀を構えた。


 まるで何かから、僕をかばうかのように。


「大丈夫?」


「……何とか。でも、全然状況が飲み込めないんですが」


 神谷先輩の不可解な行動に抉れた床。

 訳が分からない。


「怪異がいるの」


「……怪異?」


「そこの床が抉れてしまったのは怪異の仕業よ」


 怪異などと言われてもにわかには信じがたいけれど、普通では説明がつかないことが起こっていることは確かだ。


「多分そうしても見えないとは思うけれど、片目をつむってみて」


「片目を瞑る──」


 僕は言われるままに左目だけを閉じてみた。


 その瞬間、僕は信じられないモノを見た。


 神谷先輩のいる先。

 そこに黒いローブをまとった何かがいて宙に浮いている。

 ローブを被った顔は骸骨がいこつ

 そして骨の両手で大鎌おおがまを握っている。


 死神。

 僕にはそう見えた。


「うおっ!?」


 でも驚いて目を見開くと、死神は見えなくなった。


「あれ!? 今、死神みたいな何かが見えたんですが、消えた?」


「見えたのなら、もう一度片目を閉じてみて」


 神谷先輩に言われた通り片目を閉じると、再び死神が見えるようになった。


「これは、どういうこと──」


「説明は、この怪異を片付けた後」


 神谷先輩が言うと、死神が浮かび上がりながら後退を始めた。

 何だかひるんでしまったようだ。


「逃がさない」


 神谷先輩が高く跳び上がった。

 その勢いのまま刀で斬り上げる。


 ザシュ!


 死神が真っ二つになった。


 シュタッ!


 神谷先輩が着地した。

 刀をクルリと一回転させてカチンと鞘に納める。


 その直後、上空で二つに切り裂かれていた死神は──。


 シュウゥゥゥ


 音を立てて跡形もなく消滅した。


怪異かいい成敗せいばいりょう


 神谷先輩が涼しい声で呟いた。


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