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第3話 意外な一面


「……見たの? アレを」


 神谷先輩の質問に僕は考え込んだ。


 アレとは何だろう。

 僕が見たのかどうか、神谷先輩が気になって仕方がない、アレ──。


「あっ」


 僕はアレが何なのかに気付き、思わず赤くなってうつむいた。


「見たのね。言って頂戴」


「いや、あの、その」


 言えるわけない。


 だけど神谷先輩はずいっと顔を近づけてきた。


「何を見たのか正直に言って。お願い」


 眼帯をしていない右目の眼差まなざしは真剣そのものだ。

 それに気圧けおされるように僕は叫んでいた。


「み、見ました! 神谷先輩の履いていた白と水色の縞模様しまもようのパンツをッッッ!」


 い、言っちゃった。

 すると──。


「……きゃ、きゃわわわわわわ」


 神谷先輩が真っ赤になって動揺しまくっている。

 これまでの涼しげな様子が嘘のようだ。


 なんだか可愛いかも。

 そんなふうに思っていると──。


「この好色こうしょく一年坊いちねんぼう!」


 バチーン!


「おぐっ!」


 強烈なビンタをかまされた。

 しかもほっぺではなく目に近い部分にくらってしまった。


「……あたたた」


 僕がそのあたりを押さえながら痛みに耐えていると──。


「ふん」


 だいぶ落ち着きを取り戻した神谷先輩が鼻を鳴らした。


「……他には、何も見てないの?」


 恥じらいと不安が入り混じったような様子で神谷先輩がたずねてくる。


「他に見たもの、ですか?」


 パンツ以外に見たものと言えば──。


「……あっ。そういえば神谷先輩、落ちてくるときに刀を持っていませんでしたか?」


 僕は思い出したことを口にした。

 抜き放った刀と鞘を手にしていたはずだ。


「……やあねえ。銃刀法違反よ。刀なんて持っているはずがないじゃない」


 常識的に考えればそうなのだけど。

 それに今、神谷先輩が否定するまでになんとなく間があったような……。


「でも確かに見た気がするんですが」


「(……まあ、そこまでは見られてもいいのだけどね。肝心かんじんのアレは普通は見えないのだし)」


 え?

 神谷先輩、小声でなんか言った?


「それより、大石君。目、痛いの?」


 神谷先輩が仕切り直すようにたずねてきた。


「周りはちょっと。でも目には当たってないので、多分大丈夫です」


 僕が左目のあたりを押さえたまま答えると、神谷先輩はすっと自分の頭に手をやって眼帯を外した。


「あげる。もし腫れてしまって目立つようなら着けると良いわ」


 僕は差し出された眼帯を受け取りながら、それまで隠れていた神谷先輩の左目を見ていた。

 

 当然ながら色違いの邪気眼なんかじゃない。

 右目と同じ切れ長の黒い瞳だ。

 

 神谷先輩は眼帯を手渡すと長い髪をさらりとかき上げた。

 おもわずドキリとしてしまう絵になるような仕草。


 僕は神谷先輩が物凄い美少女であることに気付いてしまった。


「どうかしたのかしら?」


「……あっ、いえ。その。神谷先輩は眼帯を着けていなくていいんですか?」


 僕は照れ隠しのように慌てて質問を繰り出した。


「……無くても大丈夫だから」


 確かに左目が特に腫れたりしている様子はなさそうだ。


「ならどうして眼帯を?」


 神谷先輩の表情が一瞬だけ『しまった』というふうに動いた気がした。


「……実は、この眼帯には秘密があるの」


 少し考える様子を見せた後で神谷先輩が口を開いた。


 僕はゴクリと喉を鳴らした。

 予想に反して実は邪気眼!?

 念を込めると不思議に光って特殊なものが見えるとか!?


「この屋上が本当は立ち入り禁止であることは知ってる?」


「……はい」


「そして私とは別の二年生の女子が、少し前からものもらいで眼帯をつけているのだけど」


「……はあ」


「だから私も眼帯を着けてみたの。屋上の鍵を職員室から無断拝借むだんはいしゃくするのを目撃されてしまったとしても、その子の仕業しわざに見せかけられるかもしれないから」


 …………………………。

 …………………………。


 この人、最低だな。

 やっぱりトンデモ女子だ。

 ときめいて損したよ。


「とにかくこの屋上は立ち入り禁止。もう来ない方がいいわ」


 職員室の鍵を勝手に使って侵入した人に言われたくない。


「もう行った方がいいわ」


 神谷先輩が床に置いてあったお弁当箱を袋に詰めると、僕の胸に押し付けてきた。


「危ないから、屋上に来ては駄目よ」


 神谷先輩はそう言って微笑した。


「──────」


 僕はその微笑に釘付けになっていた。


 それまでのトンデモな行動が頭から飛んでしまうくらい、寂しそうな微笑みだった。


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