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第2話 トンデモ少女な先輩


 ムシャムシャ

 ムシャムシャ


 意識が戻り始めた僕の耳に奇妙な音が届いている。


 ムシャムシャ

 ムシャムシャ


「……それにしても私の落下地点に真新まあたらしい学ランを着た男子がいるなんてね」


 ムシャムシャという音がしなくなったとき、女性の涼しげな声が聞えた。


「不運にも前途ぜんとある新一年生の命を散らしてしまうことになってしまって残念だわ」


 声は続いている。

 もしかして声の主の女性、僕が死んでしまったと勘違いしてしまっている?


「でも殺人の前科がつくのは困るわよね。どうやったらバレずに済むかしら? 遺体の処分方法を検索検索」


 は、はいぃぃぃ?

 涼しい声でなんと恐ろしいことを──。


「まあ。今は山や海にてる以外にも、クスリで溶かしてしまうなんていう方法もあるのね。凄いわ」


 何に感心してるんだ!


 そう思いながら目を見開くと青空が見えた。

 どうやら屋上の床に仰向けに倒れていたらしい。


 慌てて上体を起こしてみると──。


 僕のすぐそばで、高校指定の黒いセーラー服姿の女子が体育座りをしていた。


 長い黒髪が春風でゆるやかに揺れている。

 そして左目には眼帯をしていた。

 空から降ってきて僕に直撃した少女に間違いない。


 その女子の右目の視線が手にしているスマホから僕へと向けられた。


「あら? 目が覚めたのね」


 これまでと変わらない涼しい声で少女が言った。


「大丈夫? 大急ぎで救急車を呼ぼうとしていたところよ」


「嘘つけ! 死体遺棄したいいきの方法を検索していただろ!」


「聞こえていたのね。ごめんなさい。君が死んでしまったかもしれないと思って動転してしまっていたの」


 あの涼しい声で動転?

 本当かなあ。


「ん?」


 僕は女子のすぐそばに置いてあるものに気付いた。

 空になったお弁当箱だ。


「それ、僕のお弁当箱。なんでカラなの? まさか……」


 女子が自分の唇をペロリと舐めた。


「ごちそうさま。お弁当のサンドイッチ、美味しく頂いたわ」


 さっきのムシャムシャムシャという音は、この少女が僕のお弁当を食べていた音だったのか!


 僕は思わず立ち上がっていた。


「大急ぎで救急車を呼ぼうとしてたっていうの、完全に嘘じゃないか! よりによって人のお弁当食べてたのかよ!? 」


「君が私と屋上の床のサンドイッチになってしまったと思ったとき、急にサンドイッチを食べたくなってしまったの。そんなときに君のお弁当からサンドイッチの匂いがしたのなら仕方無いじゃない」


 ゆっくりと立ち上がった少女が悪びれもせず言った。


「……わ、訳の分からないことを。そもそも人の物を勝手に食べるな! ましてや倒れている僕を放置して!」


「君が亡くなってしまったと思ったから、せめてフードロス防止に貢献できたらと考えたまでのことよ」


 だ、駄目だ。

 こいつ、ぶっ飛んでる。

 史上まれにみるトンデモ女子だ。


「それよりさっきからタメ口ね。感心しないわ。君は一年生でしょう?」


「……そうだけど」


「私は二年生の『神谷かみやまほろ』よ」


 女子が学年と名前を言った。

 先輩だったのか。


「君の名前は?」


「……大石コウです」


「大石君。言葉に気を付けて頂戴。まったく。常識がないわねえ」


「それは神谷先輩でしょうが! 人の物は食うわ、死体遺棄の検索をするわ!」


 トンデモすぎてどこから突っ込んでいいか分からないほどだ。

 でも、もっと不可解なのは──。


「……それよりどういうことです? 空から降ってくるなんて──」


 明らかに常軌じょうきいっしている。


 問い質すと、神谷先輩が考え込む様子見せた。

 少し待っていると顔を塔屋とうやに向けた。

 校舎との出入口になっている建物の出っ張った部分だ。


「あの塔屋の上でお昼寝をしていたのだけど、寝返りをうったときに落っこちてしまったの。けれど落下地点に大石君がいてくれたおかげで怪我をしないで済んだわ。ありがとう」


「……え? でも」


 僕は強烈な違和感を覚えていた。


 もし昼寝をしていて落ちたのなら塔屋のすぐそばに落ちるのではないだろうか。

 だけど僕は塔屋から数メートルは離れた場所にいた気がする。


 それだけじゃない。


 塔屋の高さは3メートルあるかないかぐらいだけど、それよりもずっと高い位置から神谷先輩は降ってきたような──。


「それより大石君。……見たの? アレを」


 今度は僕が問い質されていた。


「……アレ?」


 一体なんのこと?


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