番外編2 カイルが帝国茶道を学ぼうとした件
ある日、カイルが少し早めに来て、カウンターに近づいてきた。
「少し聞いてもいいですか」
「何でしょう」
「お茶を淹れることを、学びたいのですが」
エルザは手を止めた。
「お茶を?」
「ええ。ずっと、飲む側でした。でも、淹れる側を知りたい。あなたが大切にしているものを、知りたい」
エルザはしばらく考えた。
「……少しなら、教えられます」
「ありがとうございます」
翌週、閉店後にカイルへの個人レッスンが始まった。
店長リリーが「私は用事があるので」と言ってさっさと帰った。エルザは店長の背中を見送りながら、用事などないだろうと思った。思ったが、言わなかった。
「まず、お湯の温度から」エルザは言った。「手をかざして、確かめて」
「こうですか」カイルはやかんの上に手をかざした。
「もう少し近く——」
「あっ」
「大丈夫ですか」
「大丈夫です」カイルは平然としていた。「砂漠育ちなので、熱さには強いんです。たぶん」
「たぶん?」
「今、少し熱かったです。でも大丈夫です」
「……次は茶葉の量を」
カイルは集中して茶葉を量った。非常に真剣な顔だった。真剣すぎて、多めに入れすぎた。
「カイルさん、それは通常の二倍入っています」
「……そうですか。どうしようかな」
「それでも、飲めますか」
「飲めますが、渋くなりますね」
「渋いのも、経験として」
「……無理しなくても、大丈夫ですよ」
できあがったお茶は確かに渋かった。カイルは一口飲んで、表情を変えずに言った。
「おいしい」
「本当ですか?渋くないですか?」
「渋い。でもおいしい」
「それは……強い味覚の持ち主ですね」
「砂漠育ちなので」
エルザは少し笑った。声には出さなかったが、口角が上がるのを抑えられなかった。
カイルはそれを見て、とても嬉しそうな顔をした。
「エルザが笑いましたね。やっぱり可愛いですね」と彼は言った。
「……笑っていませんし、可愛くもないです。もうそんな歳じゃないですし」
「笑っていましたし、可愛かったです。そして、笑ってなくても可愛いです」
「気のせいです」
「可愛いです。確かに」
「カイルさん、次の蒸らしの時間の話を」
「もう一回笑ってください」
「カイルさん」
「わかりました」彼は穏やかに言った。「次の話をします。でも、可愛いのは事実です」
エルザは顔を赤くしながら、蒸らしの説明を続けた。




