200話 エレン、大事なものを失う
この世界に来てから、巨大な魔物に追い詰められたり、暗殺者と対峙したり、友人に毒殺されかけたりと、様々な命の危機に私は遭遇してきた。
そして今、それらに匹敵……はしないにしろ、新たな危機が訪れている。
「どうだエレン、小娘! おめぇらが言ってた銃って武器だぞ!」
そう、マテツさんが銃を作ってしまったのだ。
色は黒いが、魔導銃と同じ形のピストルだ。
(な、なんで……!?)
この世界に銃は存在しない。
私が使っている魔導銃も、実際はマテツさんが作ったオリジナルの武器だ。
形状や仕組みが偶然似ていたため、そう私が名付けただけに過ぎない(よく杖と間違われるし)。
そのはずだったのに……。
「ま、マテツさん……。どうして銃なんか作ったの?」
「俺の知らねぇ武器があると聞いて前から気になっていてな。魔導銃の仕組みを応用して作ってみたんだ。苦労したんだぞ」
「いやいやいや!! マテツさんは魔道具職人でしょう!? なんで普通の武器に本気出してるの!?」
「基礎になる武器を知ってこそ、いい魔道具の武器が作れるんだろうが」
「う……!?」
正論で返された……。
「エレン、欠陥親父が銃を作った程度でなに慌ててんのよ?」
「いや、それは……」
マテツさんが銃を作れたこと自体は問題じゃない。
私が恐れているのは、銃の製法が知れ渡って、世界に普及してしまった場合だ。
銃は遠くから簡単に人の命を奪えてしまう。
もしこれが異世界に広まってしまったら……ただでさえ魔法や剣が飛び交う危険な異世界が、さらに混沌と化してしまう!
「小娘、早速倉庫に行って試し撃ちしてくれないか?」
「クックック、遂にあたしが銃を撃てる時が来たのね!」
「面白そうですね! 私も行きます!」
「ミラも行くー♪」
みんなで和気あいあいと倉庫へ移動する中、私は銃を普及させないための作戦を考える。
(いや、でも考える必要はないんじゃ……?)
マテツさんのことだ。
魔導銃みたいに、私しか扱えない武器に仕上がっている可能性もある。
それだったら心配しなくても……。
数分後。
バァン! バァン! と銃声が倉庫に響き、設置された木人の頭が正確に撃ち抜かれる。
「欠陥親父! ちゃんと撃てるじゃないこの銃!」
「ガハハ! そうだろう! 俺の設計は完璧だ!」
「つまんないですねー。そこは空気を読んで盛大に外すとか……」
「そこは爆発しなさいよ!」
マルタを食い気味に叫ぶ。
いや、本当になんでまともな銃が出来上がってるの!?
「アルテナ、それがあなたの役目でしょう!」
「あたしをなんだと思ってるのよ!?」
そうだ、マテツさんは魔道具じゃなければ普通に腕が良いんだった!
「しかし作った俺が言うのもなんだが、こいつはすげぇ武器だな。魔法も弓も使わず、遠くからこれだけの威力が出せるとは……。よし! これでギルドの連中を見返してやれるぞ!」
「クックック、今度こそあいつらに銃のカッコよさとすごさを教えてあげようじゃない!」
「え……まだ二人とも根に持ってたの?」
結構前、銃をボロクソに言われたからって……。(※32話参照)
いや、まだだ。
まだ慌てる時間じゃない。
「マテツさん、これって量産できるの?」
そう、量産ができなければ問題は……。
「ああ、素材自体は特に珍しくないからな。製法さえわかっちまえば、作るのはそんなに難しくねぇぞ」
「え!?」
「小娘が使っても大丈夫なら、量産して店に出しても良さそうだな」
「ええーーーー!?!?」
ダメだ、物事が最悪な方向に向かっている!
このままでは銃弾が飛び交う危険な世界が誕生してしまう!
私が生き残れる可能性も格段に低くなる!
こうなったら……。
「マテツさん……!」
思いっきり圧をかけながらマテツさんの両肩を掴む。
「ど、どうしたエレン?」
「……銃はね、強いけれど危険な武器なの。無力な村人だって指一つで簡単に人を殺せる、人殺しの道具なのよ。マテツさんはそんなものを世界に広めていいの?」
情に訴えるしかない。
マテツさんはいい人だ。
きっとわかってくれるはず……。
「確かに、この銃って奴は危険な武器だな」
「そうでしょう。だから……」
「だが、俺は別に人殺しのために銃を作ったわけじゃねぇぞ。魔物から身を守るためだ」
「え……魔物から?」
「そうだ。これがありゃぁ一般人だって魔物を相手にできるじゃねぇか。魔物の被害が格段に減るかもしれねぇぞ」
「う……!?」
正論パンチが私を襲う。
確かに、銃があれば魔物の被害を減らすことが出来るかもしれない……。
「仮に人殺しの道具に使われたとしてもだ。それは使う側の問題であって、俺は関係ねぇ」
「でもそれって、無責任なんじゃ……」
「アホか、そんなの気にしてたら誰も武器なんか作れねぇだろう。大量破壊兵器でもあるまいし」
「ぐ……!?」
再び正論パンチが私を襲う。
確かに、そんなの気にしてたら鍛冶なんて誰もできない……。
「いやでも……マテツさんの本職は魔道具職人よね? 銃にかまけてないで、魔道具を作っていた方が……」
「そうしてぇのは山々だがな。俺の魔道具は扱える骨のあるやつがいねぇし、武器で生計立てるしかねぇんだ」
「うぐ……!?」
経済的な問題……!!
三発目の正論パンチがヒットし、マテツさんの前にひれ伏す。
(ど、どうすれば……?)
「エレン様、大丈夫?」
「エレンさん、さっきからどうしたんですか?」
必死に頭を回転させていると、ミラとマルタが心配して近づいてくる。
「えっと……そうだ、ミラとマルタは銃についてどう思う?」
藁にもすがる思いで二人に聞くが……。
「エレン様も使っているすごい武器!」
「一般人でも魔物に抗える良い武器だと思いますね」
(……ガクッ)
ダメだった。
二人とも銃を受け入れている。
そもそもミラは銃弾くらい効かなそうだし、マルタは避けたり刀で弾いたり出来そうだし……。
脅威になるのは私だけか!
「よっしゃ、早速制作に取り掛かるか」
「あ、欠陥親父。この銃くれない?」
「ダメに決まってんだろう。試作品だぞ。店に並べたら買いに来い」
「ちぇ、ケチ!」
そんなやり取りの後倉庫から出ると、マテツさんは扉を閉め、店に戻って行った。
その後。
「いやー、完成が楽しみね!」
「実際大発明になるかもしれないですね」
「大発明だー♪」
帰りの魔道車の中で、楽しげに話している三人をよそに、私は悩んでいた。
確かに銃が完成すれば魔物の被害は減るかもしれない。
しかし、それが人に向けられる日もそう遠くはない。
そうなれば、今後銃の脅威が私を襲う可能性は非常に高い。
(ど、どうにかしないと……)
家に帰った後も、自室の机に座って頭を抱える。
「そうだ、銃がこの世界に普及する前に、マテツさんを始末してしまえば……いやいやいや!」
危ない。
もう少しで人の道を踏み外すところだった。
「でもどうすれば……せめてマテツさんの頭から銃を忘れさせることができれば……」
魔法でどうにか出来ないかと思ったが、記憶を消す魔法なんて使えない。
もう諦めかけたその時。
「……あ」
一つだけある。
マテツさんから銃を忘れさせる方法が。
けれど、これは身を削る苦肉の策だ。
「でも……これしかないわね……」
私は悩んだ末決心すると、ある物を持って一人、マテツさんの店に行く。
「マテツさん、ちょっといいかしら?」
「どうしたエレン? 忘れもんか?」
「実は……ちょっと見て欲しいものがあるの」
マテツさんにある物を渡す。
そして数分後……。
「うおおおおおお!!!! なんだこの魔道具は!?!?」
渡した物を見て、年甲斐もなくはしゃぐマテツさんがいた。
「エレン! これはなんて言う魔道具なんだ!?」
「それは……スマホって言うの。私の故郷にある魔道具よ」
そう、渡したのは私のスマホである。
実際は魔道具じゃないが、この世界にとっては魔法のようなオーバーテクノロジーだ。
魔道具職人であるマテツさんにとって、これほど興味をそそられるものはあるまい。
「ほら、こんなふうに映像を保存出来るのよ」
写真を撮って見せると、マテツさんは子供のように目を輝かせる。
「す、すげぇ! 一体どんな仕組みなんだ!? エレン頼む! この魔道具を貸してくれ!」
「ええ、良いわよ」
「本当か!? 分解しても良いか!?」
「ええ、もちろん良いわよ。その代わり……」
そうして、私はスマホの代わりに銃の試作品をもらうことに成功した。
きっと熱が冷める頃には銃のことなど忘れてるに違いない。
……でも。
「あのスマホ……多分もう帰ってこないわね……」
銃の普及を阻止できたものの、大事な地球の思い出を失い落胆する私だった。
後日、この件がきっかけで私はある物を手に入れることになるのだが、それはまた別の話。
最近主人公が荒れてばっかな気がします。
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