199話 武器のメンテナンス
ある昼下がり、私たち四人は武器のメンテナンスをするためマテツさんの店に来ていた。
この前交わした契約で代金はタダだ。
利用しない手はない。
「工房はこっちだ」
マテツさんに案内され、店の奥の扉を開けると、熱気が私たちを包み込む。
赤く燃えさかる炉に、その傍らには大小のハンマーが並べられている。
工房の中央には回転砥石が置かれ、壁には剣や槍などの武器が掛けられていた。
「へぇ! いかにも鍛冶師の工房って感じじゃない!」
異世界というか、ファンタジーものが好きなアルテナが興奮する。
「そりゃ職人だからな、こんくらい当然だ。さて、整備してやるから武器を見せろ」
マテツさんに言われ、それぞれ武器を渡す。
「ほう、どれも使いこんでいるな。ちょっと待ってろ」
まずは私の相棒とも呼ぶべき魔導銃。
マテツさんはそれを手に取ると、テキパキと分解。
ヤスリやブラシで銃身内部を手入れし、各部分に油をさして組みなおす。
「目立った破損個所はなかったからな。こんなもんだろう。これからも大事に使ってやってくれ」
「ええ、ありがとうマテツさん」
次にマテツさんは、ミラのオーガハンマーと、アルテナの双剣の整備に取り掛かる。
刃こぼれや歪みを鋭い目で確かめ、回転砥石で傷ついたところを丁寧に研ぎ直していく。
うん、こうして見ていると本当にベテランの職人という感じだ。
「おし、出来たぞ。これからも大事に使ってやれよ」
「わーい! ありがとうマテツおじちゃん!」
「欠陥親父のくせにいい仕事するじゃない」
ピカピカに整備された武器を見て、二人も思わず笑顔になる。
「当たり前だ。俺はプロの職人だからな」
「なら魔道具もちゃんと作りなさいよ。なんで欠陥品ばっかなのよ?」
「なんだと!? 俺は欠陥品を作った覚えはねぇぞ! 扱えねぇ奴が悪いんだ!」
そうは言うが、こればっかりは私もアルテナに同意だ。
以前魔導銃を鑑定した時も「欠陥品」扱いだったし……。
この頑固気質、どうにかして直らないものだろうか?
「ほら、マルタも刀を整備してもらったら?」
工房の隅で、明らかに警戒している様子のマルタに声をかける。
「いえいえ、私はいいですよ。危険物にでも改造されたらたまんないですし」
「なんだと?」
マルタの言葉に青筋を立てたマテツさんは、彼女をにらみつける。
「マルタと言ったな? てめぇ、俺の腕を疑う気か?」
「おやおや、触っただけで感電するような危険物作っておいて、疑うなというのが無理ありますねー。その腕大丈夫ですか? 節穴ならぬ節腕なんじゃないですか?」
「言いやがったなこの野郎!」
マルタの毒舌が炸裂し、二人の間に火花が飛び散る。
……どうやら、先日魔剣カラドボルグで感電したことを根に持っているらしい。
まあ無理もないけど。
「エレン様、どうしよう……?」
「ちょっとエレン、どうにかしなさいよ」
「……仕方ないわね、アレの出番よ」
マルタの性格を考えればこれくらい想定内だ。
用意しておいたある物を取り出し、二人の間に立つ。
「まあまあ二人とも、これでも飲んで落ち着きなさい」
「む、そいつは……」
「あー! エレンさんそれ、私のお酒じゃないですか!」
そう、用意したのは家からこっそり持ってきた、マルタの酒瓶である。
「おお、酒か! しかも結構上等じゃねぇか!」
マテツさんが目を輝かせて食いつく。
よし、ドワーフは無類の酒好きだというイメージだったが、合っていたようだ。
「いや、それ私のお酒ですよね? なに勝手に持ってきてるんですか!?」
「あとでまた買えばいいでしょう?」
木のコップに酒を注ぎ、二人に手渡す。
「ほら、ぐいっと」
「……おいエレン。酒は好きだがな、だからってこいつを許す気はねぇぞ」
「そうですよ。酒を飲んだからってわだかまりが無くなるとでも……」
……数分後。
「ガハハハハ! オメェこの酒を選ぶとはなかなか通じゃねぇか!」
「お、わかりますか!? こののど越しがたまらないんですよね! あははは!」
肩を組んで意気投合した二人がいた。
「エレン様すごい! 一気に仲良くなっちゃった!」
「そ、そうね……」
流石にここまで上手くいくとは思わなかった。
酒の力ってすごい。
「マルタ、早く刀を整備してもらったら?」
「仕方ないですねー。改造しないでくださいよ?」
「するか! ちょっと待ってろ」
マテツさんはマルタから刀を受け取り鞘を抜くと、水色の美しい刀身が現れる。
改めて見ると、とてもきれいだ。
涼しげな冷気が刀身から溢れ出し、熱い工房の空気を冷やしていく。
「こりゃなかなかの業物だな。どこで手に入れたんだ?」
「実家に代々受け継がれているものですね! 氷刀『氷雨』と言います!」
「前から思ってたけど、クソうさぎには勿体無いくらいかっこいいじゃない」
「おや、羨ましいんですか? ポンコツさんも刀が欲しかったりしますか? 刀身無しだったらよく似合いますよ!」
「刀って言わないでしょそれ!」
いつものコントが始まったところでマテツさんは作業に入る。
酒が入った状態で大丈夫かと思ったが、刀を研いでいくその姿は変わらず洗練されていた。
さすがドワーフだ。
一杯程度の酒では問題ないらしい。
数十分で作業は終了し、マルタはより美しくなった愛刀を見て満足気になる。
「ほかに整備が必要な武器はねぇか? あるなら今のうちに言ってくれ。近々忙しくなりそうなんでな」
「何かあるのマテツさん?」
「ああ、クリス家から少々でけぇ依頼が舞い込む予定でな」
「クリス家から?」
一体何の依頼だろう?
騎士団の装備一式を作ってくれとかだろうか?
クリス家がマテツさんの腕を知らないとは思えないし、少なくとも魔道具関連ではないと思う。
「そうね……。整備じゃないんだけど、頼みたいことがあるわ」
私はそう言いながら、あるものをマテツさんに渡す。
「なんだこりゃ?」
「”鑑定モノクル”よ」
ヴェインのダンジョンで手に入れた、鑑定のユニークスキルを使うことが出来る魔道具だ。
今はダヴィドに破壊され、真っ二つになってしまっている。
「鑑定だと!? そんな貴重なモンを壊しちまったのか!?」
「ええ。どうにか直せないかしら?」
このモノクルにはお世話になったし、ダヴィドのナイフから命を救ってくれた大事な物だ。
出来ることなら直したい。
「……ちょっと待ってろ」
マテツさんは鑑定モノクルを手に取り、慎重に観察する。
そしてしばらくして。
「……すまねぇ。これは俺でも無理だな」
マテツさんは申し訳なさそうにそう言う。
「直す方法はないの?」
「無理だな。”魔導コア”が破壊されちまってる」
「魔導コア?」
「ああ、魔道具の心臓とも言える部分だ。これが壊されちまっている以上、もうどうにもできねぇ」
「……そう、ありがとうマテツさん」
残念だが、どうやら修理は無理らしい。
「わりぃな。ほかに用事はねぇか?」
「ええ、大丈夫よ。今日はありがとう」
用が終わり、帰ろうとしたその時。
「あ、ちょっと待ってくれ。ついでに俺からも頼みがあるんだが」
「頼み?」
「ああ。俺が新しく作った武器の実験に付き合ってほしいんだ」
「え?」
マテツさんが作った新しい武器?
なんだろう……嫌な予感しかしない。
「エレン、何不安になってんのよ。欠陥親父が作った奴でもあんたなら大丈夫でしょうが」
アルテナがそう言って私の背中をたたく。
こいつは他人事だと思って……。
まあ確かに、扱えるとは思うけど。
「いや、今回は小娘、オメェに試してほしいんだが」
「え、アルテナ?」
「はぁ!? あたし!?」
まさかの自分が指名され、驚くアルテナ。
「ちょっと待ちなさい! またあたしをぼろぼろにする気!? せめてクソうさぎにやらせなさいよ!」
「なんでですか!? 私はもうビリビリしたくないですから! こういうのはポンコツさんの役目でしょう!」
「オメェら! 俺をバカにするのもいい加減にしろ!」
いや、こればっかりはしょうがないと思う。
「安心しろ、今回は魔道具じゃねぇ。普通の武器だ」
「何ですって? 普通の武器?」
「ああ、だから武器の扱いに慣れてるオメェに試して欲しいんだ」
なるほど、魔道具じゃないなら安心だ。
鍛冶師としての腕は確かだし。
「で、どんな武器よ?」
「ちと待ってろ」
そう言ってマテツさんは工房の奥へ行き、何かを持ってくると、作業台に置く。
「こいつだ」
「おお! 欠陥親父、これって!?」
「ま、まさか……!?」
それを見てアルテナの目が輝き、私は愕然とする。
マテツさんが持ってきた物。
それは紛れもない銃だった。
次回、またエレンが荒れます(最近荒れてばっかな気がする)
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