198話 エレン、闇堕ちする
今回エレンがキャラ崩壊します。
ご注意ください。
懐かしい夢を見て起きた早朝。
アルテナがスマホで動画を見ていた。
「ところで、朝食は何が食べたい?」
「がっつりしたものが食べたいわ。ステーキとか」
「はいはい」
早朝だっていうのに元気なやつだ。
しかし、アルテナもスマホを持っているとは思わなかった。
まあそれはともかく朝食を作ろう。
リビングに行き、厚切りにしたオーク肉を豪快に焼く。
塩胡椒で軽く味付け。
焼き上がった肉にレタスとトマトを乗せ、パンに挟む。
オーク肉の簡単サンドイッチの出来上がりだ。
「はい、どうぞ」
「流石あたしの従者、美味しそうじゃない」
「良かったわね」
相変わらずの従者呼びを適当にスルーし、サンドイッチをアルテナの前に置く。
さて、次は自分のを作ろう。
オーク肉の代わりに目玉焼きを作り、軽くバターをパンに塗る。
トマトとレタスと一緒に、さっきと同じようにパンへ挟む。
これで完成。
ついでに二人分の紅茶も淹れてテーブルに持って行く。
「はい、お茶」
「気が効くじゃない」
「ついでよついで」
私もテーブルに座り、朝食を食べ始める。
一方アルテナは、スマホ片手にサンドイッチをぱくついている。
「ぷっ! この配信者のやってみた動画いつも面白いわねー」
「ちょっとアルテナ、食事しながらスマホを見るのはマナーが悪いわよ」
「ちょっと今面白いところだから……」
「いいから止めなさい」
「あーもう分かったわよ」
仕方ないという顔でアルテナがスマホをテーブルに置く。
「全く、子供じゃないんだから……」
呆れながら紅茶を飲む。
ああ……朝の穏やかな時間に紅茶は沁みる。
……ん?
「ちょっと待てー!!!! なんであなたがスマホ持ってるのよ!?」
いや、我ながら気づくのが遅すぎるけど!
「はぁ? いきなりどうしたのよ?」
「どうしたのじゃないわ! しかも動画見てたわよね!? なんでそのスマホ電波繋がってるのよ!?」
「あたしが持ってちゃ悪いの? ていうかこれスマホじゃないし」
「え? スマホじゃない?」
「そう、『スマート・ゴッド・フォン』。略してスゴホよスゴホ」
「名前が神っぽくなっただけじゃないの!」
ていうか言いにくい!
「一緒にするんじゃないわよ。これはどこの世界にいようと電波が繋がる、天界で普及してる神の神器なんだから」
「なにが神器よ! ただの便利アイテムじゃないの! それでユーチュー〇でも見てたっていうの!?」
「違うわ、Gーチュー〇よ」
「なんでもGつければいいってもんじゃないでしょう!!」
「あんたは何に怒ってんのよ?」
……ん、ちょっと待って。
どこの世界にいても電波がつながる?
「まさかそれ、地球に電話もできるの?」
「ふ、当たり前じゃない。どこにいたって繋がるんだから……」
「それ貸しなさい!」
素早く身を乗り出し、アルテナのスマホ(スゴホ)に向け手を伸ばす。
「ちょっ! 何すんのよ!?」
アルテナが私の手を躱す。
「家族へ連絡するのよ! いいから貸しなさい!」
「なに言ってんのよ!? 人間が異世界から連絡するなんてダメに決まってるでしょう!」
「いいじゃない! 家族の声を聞くくらい!」
「いや、あんた存在したという事実ごと地球から消えてるし、誰も覚えてないから!」
「……え?」
存在ごと消えて……家族も友人も、私の事覚えていない?
「なんでそんなことに……」
「だって召喚されて行方不明なんてなったら大騒ぎになるじゃない。だから召喚するときちょちょっと地球上から存在を消して……」
「な、なんてことしてくれたのよアルテナー!!!!」
アルテナの襟をつかみぶんぶん振り回しながら叫ぶ。
いや、本当になんてことをしてくれたのよこいつは!
「あ、安心しなさい! 帰るとき、そこらへんちゃんと元に戻すつもりだから!」
「安心できるか!」
こいつのことだから微妙に何か変わったりしそうだし!
「とにかく、そのスマホを貸しなさい!」
「だからあんたのこと誰も覚えてないっての!」
「それでもいいわ! 声だけでも聞ければ!」
「だからダメだっての!」
必死にスマホを奪おうとするが、アルテナに腕を掴まれテーブルに抑えられる。
ダメだ、力じゃアルテナには敵わない。
だったら……。
『火迅!』
一瞬だけ火迅の魔法を発動し、アルテナへ向かって突っ込む。
足裏から噴き出した炎の勢いでアルテナへ体当たり。
「うわ!?」
「掴んだわ!」
スマホを掴むも、勢い余って二人まとめて床へ倒れ、その衝撃で手から離れ床へ転がってしまう。
その直後、スマホからどこかで聞いたようなアニソンが流れ始める。
「ちょっとエレン! あんたどこ押したのよ!?」
「いや、わかんないわよ」
掴んだ時になにか操作してしまったらしい。
そしてBGMが途切れると、「もしもし……?」という声が聞こえてくる。
「げ!? どっかに繋がっちゃったじゃない!」
「え……? この声って……!?」
慌ててスマホを覗き込むと、そこにはよく知っている顔が映っていた。
「委員長!?」
『水無月さん!?』
画面に映し出されているのは、私の友人である、才色兼備の委員長だった。
これ、ビデオ通話!?
というより……。
「どうして委員長が電話に!? それに、私の事を覚えているの!?」
「ええ、周りは忘れてしまったけど、私だけは覚えているわ」
え、どういう事?
「ちょっと、誰と話してるのよ!? ってあれ? こいつ、あたしが元々召喚しようとしてたやつじゃない」
「アルテナ、委員長だけは私を覚えているらしいわ」
「え、マジで? もしかして召喚しようとしたのが原因かしら?」
どうやら委員長だけが覚えているのは事故らしい。
『それよりも、どうして水無月さんが女神様の電話に!?』
め、女神様の電話?
「やあ、久しぶりね」
『女神様! お久しぶりです!』
委員長が深く頭を下げる。
え、まさか二人って顔見知り!?
「ちょっとアルテナ、どういうこと?」
「こいつとは何回か連絡とり合ってたのよ。異世界行くから従者としてついてきなさいって」
「え、ちょっと待って。初耳なんだけれど……。じゃあ、あの日委員長を召喚しようとしたのって……」
「事前にこいつへ連絡してたわ。ちゃんと同意も得てたわよ」
「い、委員長……。本当なの?」
『ええ、全部女神様の言う通りよ』
「ええーーー!?!?!?!」
全部アルテナの思い付きと勢いだと思ってたのに!
それよりも、同意を得ていた?
ということは……。
「じゃあ……私が委員長をかばったのって……」
「……まあ、全くの無駄だったってわけね」
「……む、無駄……」
無駄という言葉が頭上に重くのしかかり、膝から崩れ落ちる。
「なんで教えてくれなかったのよ……」
「だって聞かれなかったし……」
「いやそれよりも! 決まってたなら委員長一人の状況で召喚しなさいよ! なんで私がそばにいるときに実行するのよ!」
「えっと……そこまで考えてなかったわ」
「詰めが甘すぎるでしょう!?」
アルテナへ食って掛かっているその時。
『水無月さん! やっぱりあなたが私の異世界ライフを横取りしたのね!』
委員長が画面越しに怒り出す。
いや、なんで?
「な、何をそんなに怒ってるの委員長?」
「怒って当然よ! 私はずっと、ラノベで見るような異世界の冒険にずっとあこがれてたんだから!」
「ええーー!?!!?」
それも初耳なんだけど!?
「で、でも委員長? 異世界ってそんな良いところじゃないわよ? すごい危険だし……」
『それは水無月さんだからでしょう!? 私のスキル「英雄」の力を持ってさえすれば異世界なんて楽勝だって女神様が教えてくれたわ!』
「え、英雄?」
確かアルテナから聞いたような……。(4話参照)
いや、確かにすごそうなスキルだけど!?
「いや、実際こっちの生活は大変なのよ? ゴブリンの巣に突撃する羽目になったり、ダンジョンで危険な目に遭ったり、町を揺るがす危機に巻き込まれたり……」
『全部異世界お決まりの展開じゃない! そんなワクワクする冒険を横取りするなんてひどいわ!』
「うん、全部じゃないけど実際楽しかったわね」
『やっぱり!』
「アルテナは余計なこと言うんじゃない!」
ああ……才色兼備、学校一の人気者という委員長のイメージがどんどん崩れていく……。
『それに……私は異世界で成し遂げたい夢もあったんだから!』
「ゆ、夢?」
『そう! チートスキルで無双して、逆ハーレムを作るっていう私の夢よ!』
「なにそれ!?」
そういえば、それもアルテナから聞いてたような……。(1,2話参照)
ていうか本当にやめて!
委員長をまともな目で見れなくなる!
『女神様! 今からでも私を異世界に召喚してください!』
「そうよアルテナ! 今からでもあたしと委員長を入れ替えたり出来ないの!?」
「いや、あたし有給消化終わるまで召喚する権限無いから。エレンには最初説明したでしょ」
「う……」
そういえばそうだった……。
ていうかそんなことできるなら、私とっくに地球へ帰れてるし……。
「ま、そんなわけでどうしようもないし、どっちにしろあたしはもう、エレン以外従者にするつもりはないから。悪いけど諦めて頂戴」
「なんでよ!?」
『そ、そんな……女神様……』
委員長がへなへなと床へ崩れ落ちる。
『私の英雄スキルが……チート無双が……逆ハーレムが……』
指を折りながら夢を数えていく。
『全部……』
ゆっくりと顔を上げ、震える手でこちらを指差す。
『全部あなたのせいよ水無月さん! あなたさえいなければ!』
「い、委員長!?」
『私の異世界ライフだけに飽き足らず、女神様までたぶらかすなんて! あなたは絶対許さないわ!』
「ええーーー!?!!?」
なんで怒りの矛先が全部私に!?
私は身代わりになっただけだから!
『諦めないわ! 私は絶対異世界に行ってみせる! そしてあなたを倒して女神様も、夢も取り戻してみせるわ!』
「待って! 私を諸悪の根源みたいに言わないで! そもそも自力でこっちに来るなんて……!?」
『諦めたらそこで試合終了なのよ! 見てなさい水無月さん!』
「委員長! ちょっとま……」
そのまま一方的に通話をブチ切られ、その場に崩れ落ちる。
「あ〜……委員長〜……」
「まあなんというか、災難だったわね」
「……ねぇアルテナ?」
「なに?」
「異世界モノって……悪側につくのもテンプレよね? いっそ冒険者じゃなくて魔王でも目指さない?」
「ちょ!? あんた何言ってんのよ!?」
「うるさい! どうせこの世は食うか食われるかなのよ!! あはははははははは!」
「あんたキャラ崩壊してるし! 言ってる意味わかんないから! とにかく落ち着きなさい!」
その後、起きてきたミラから心配そうな目で見られるまで私は闇堕ちしたままだった。
……後日。
「エレン、あんたんところの委員長だけど、『異世界へ行く同士募集』って駅前で演説して、警察に連れて行かれたみたいよ」
「い〜い〜ん〜ちょう〜……」
最初の設定を後付けしたギャグになりました。
今後また委員長が出てくる伏線かどうかは……まだわかりません。
面白かったら感想、評価お願いいたします。




